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[コメント] 華氏911(2004/米)

ブッシュ批判の落としどころにがっかり。一見の価値はありだと思います。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







マイケル・ムーア監督に倣って、自分も言いたい放題・・・

ゴアさん好き、ブッシュ嫌いの自分として、本作に対する個人的な期待は、ブッシュが如何にお馬鹿さんであるか!ではなく、何でまた多くのアメリカ人がそんなブッシュを支持してしまうのか?を、結論付けてくれることだった。 ブリトニー・スピアーズが戦争好きのブッシュ支持を公言していたが、これはブリトニーの無知を描きたかったわけでなく、驚くことに多くのアメリカ人(半分近く?)が彼女と同等であることを仄めかしていたと思う。私にとってこれがアメリカ最大のミステリーなわけだが、第一カットでゴア元副大統領を写し、ブッシュの不正疑惑から描き始めたマイケル・ムーア監督だけに、そこは結論付けてくれると信じていた。

さて、話は飛びますが、間接的ながらブッシュにはいやな思い出がある。私が転勤のため転校した英会話学校のアメリカ人女性講師(おそらく共和党支持者)は、テキストを使う授業を好まなかった。テキストを使わず“自由”きままに時事ネタを授業に取り入れる、それ自体はいいアイデアだと思う。しかし、思考が偏った人となると話は別である。イラク戦争幕開けの頃、ブッシュをどう思うかに話題が移るや、その場でその話題を好まない私は「ブッシュは嫌いなので、話したくない」と手短に言い、それ以外一切のコメントを拒否したところ(英会話の授業では初めてのこと)、話題を他に移すどころか他の気の弱い生徒の回答を誘導し、それ以来私がたまに顔を出すとブッシュネタを必ず授業に入れてくる始末。日常会話での世界一般常識として、政治や宗教の話題はタブーであるにもかかわらず、どうしてもブッシュを認めさせたかったらしい。英語を教わる上で講師の好き嫌いを考えないようにしている自分として、初めてこの人には教わりたくないと思った。ある意味、生ブッシュ。貴重な経験だった。

一方、私がゴア元副大統領を好きな理由としては、なんと言ってもアメリカ情報スーパーハイウェイの生みの親であること。私の勤める会社も少なからず恩恵を受けたし、当時、ゴア副大統領にメールを出すと、必ず返信してくれるサービスぶりであった(もちろん自動返信だったけどその内容がまた洒落てた)。そしてゴアさんの親父さん(アルバート・ゴア連邦上院議員)は、アメリカ経済発展の基礎となったアメリカ全国高速道路網の生みの親。親子2代にわたって、流通と情報のインフラをアメリカ全土に整備した、極めて建設的でビックなファミリーなのです。誰かさんとは大違い!

前置きがかなり長くなってしまいましたが、ゴア元副大統領落選に始まる冒頭とその問題提起。先に触れたように、本作のテーマはまさに私が日ごろ抱いている疑問、どうしてゴア大統領じゃなかったんだ? アメリカってどうなってるの? にマッチングするものだろうと感じた。

ところが、本作の流れはブッシュのスキャンダルと無能を描くことに(必要以上と思われるほど)重点が置かれており、本作の結論は下層の貧困と無知とそれを利用する上層部がイラク戦争を成立させた、だった。この結論はさほど目新しい考えではないし、冒頭で掲げられた問題提起に応えるものではない。選挙時の不正や階層構成がゴアさんを落選させたとは思えないし、アメリカ人が無知だからと言うのではあまりにも漠然としてお粗末。テロの脅威を利用したのも当選後の話。このようにブッシュの当選そのものを問題提起したオープニングと、イラク戦争成立要因を結論付けたエンディングでは問題が摩り替わっている。作品の構成から当然なされるべき、ブッシュが当選し(再選しかねない)国アメリカの根本にまで考察が至っていない。ここが本作の最も不満な点。

さらにラスト、上院議員への息子を派兵する意思があるか?の問いかけを、議員全員に投げかけたかも疑問が残る(本作の場合、そこまで徹底する必要があるだろう)。そもそも議員の子供が成人であれば、派兵の意思は親よりもまず本人に確認すべきだと思う。

とは言え、見所があったのも事実。テロの脅威を利用して、国民をマインドコントロールしているとの分析は、自分もマインドコントロールされていることに気づかされるものであったし、本作を観たからといって解放されるものではないトラウマのようなものであることをも思い知らされた。

年間最低一レースの海外市民マラソンを楽しみとしている自分としてもテロは怖い。911直後のニューヨークでは、当初中止が噂されたが、同年の11月に同市の威信にかけて、世界4大大会に挙げられるニューヨークマラソンが開催された。炭疽菌騒動のなか、給水所の管理も徹底され、物々しい警備のもと行われたそうである。

同時期、海外レースを計画していた私は、ニューヨークの惨状を生で見て記憶に留めたいとも思ったが、悩んだ挙句テロの脅威に負け、マラソン発祥の地、ギリシャのアテネマラソンに出場することとした。空港こそ警備は物々しかったが、アテネの街並みはテロとは無縁かのようだった。

このアテネのマラソンコースを、明日のアテネオリンピックで世界各国代表の女子ランナーが走る。オリンピックへのテロの懸念が杞憂に終わることを祈るのみである。

(評価:★3)

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