[コメント] 三人の名付親(1948/米)
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冒頭、銀行を襲撃する町を前にして、3人は「ウェルカム・アリゾナ」と書かれた看板を目にする。ペドロによると以前の町名は「タランチュラ」だったとのこと。すなわち看板は「ウェルカム・タランチュラ」。それを聞いたロバートは、栄えてきたので愛想のいい名に変えたんだろうと解釈する。 そして、街に入るや否や、見知らぬ人の家の表札“B SWEET” (Be Sweet!/愛想よくしろ!)を見たロバート(ジョン・ウェイン)は大笑い。 --- この出だしになんかいつものジョン・ウェインと雰囲気違うぞ!と私はワクワクする。
「3人の名付け親」とタイトルされた本作のテーマ、「命名」を、嘘ともほんととも取れるアリゾナの由来と、スウィート(B. SWEET)保安官(ウォード・ボンド)との出会いで表現した導入は実にうまい。そして、赤ん坊に名付けた名は“ロバート・ウィリアム・ペドロ”。 名前の由来なんてほんと奇妙なもんです。 ラストの評決で、ロバートがミドルネーム「ママデューク」を聞かれてスウィート保安官に大笑いされるという閉めもユーモアたっぷり。
さて、本作の活劇の一面について触れると、冒頭のフォード監督十八番、馬と馬車を使ったアクションは、短い時間ながらも迫力があった。ただこのシーンでの人間の心理描写は『駅馬車』ほど徹底したものではなく、あとあとの苦境につなぐ為、むしろ意識して抑えられていたようだ。 そこで注目したいのは、本気印の「ずっこけ」である。
私がここで言う「ずっこけ」とは、お笑いの「ずっこけ」ではなく、「転倒」全般を意味しているものとして捉えてほしい。また、「ずっこけ」をアクションに分類することに疑問を感じる方がいるかもしれないが、是非、観直してほしい。
文字通り、倒れるまで赤ん坊を抱きかかえていたウィリアム(ハリー・ケリーJr.)にとって、その「ずっこけ」は、重力に逆らう気力も体力もない状況で、最後の希望たる赤ん坊とその母親との約束だけは守り通したんだ、との誇りを感じられるものであった。同じく赤ん坊を抱きかかえながら小山から転げ落ちたペドロ(ペドロ・アルメンダリス)も、自らは足を骨折しながら赤ん坊だけはしっかり保護しており、その死に後悔を感じさせるものではなかった。 無事赤ん坊を街まで届けたロバートもまた、バーで勝負を挑む保安官にあっさり負けを認め「棒」のように倒れた。かのジョン・ウェインにも勝負すらさせない、とことん徹底したずっこけ演出である。
更に驚嘆すべきは、フォード監督の作品で間抜けな役を演じる役者として欠かせないハンク・ウォーデンだろう。本作でも保安官ののろまな助手として登場しているが、3人組追跡の準備の折、停車中の汽車に抵抗するロバを必死に乗せようとして、その反動で、傾いた渡し板に滑ってL字に「どすん」と尻餅をつく演技など、衝撃は尾骶骨から全身に間違いなく響いているはずで、その痛みすら感じない“鈍さ”を表現しており、さり気ないながらも演技の域を超えている。今迄で観た最高のずっこけである。
他にも本作は、幌馬車の内側から映した荒野と夜空や風に波打つ荒野など、ジョン・フォード監督の創る映像の魅力で溢れている。それから、赤ちゃんの手の小さいこと!あの無垢さは誰しもやさしくさせることでしょう。
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