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[コメント] 桃色の店(1940/米)

朝、店の前。三々五々に集まる店員たち。最後に社長が出社。何げない会話や振る舞いに、それぞれのキャラと関係性がのぞく見事な開巻。そこから始まるのは小さな活劇、疑心暗鬼の心理劇、集う人々の群像劇、恋心を修復する会話劇。なんとも緻密で巧みな脚本と演出。
ぽんしゅう

小さな活劇とはエルンスト・ルビッチ得意の「扉」のアクションのこと。店の外から店内、店のフロアーからその奥の社長室、そして商品倉庫。「扉」が開き「扉」が閉じるたび物語が転がってゆく。そこで核になるのは、社長から理不尽な扱いを受ける主人公クラリス(ジェームズ・スチュアート)と、そして社長自身の妻に対する疑心暗鬼の心理劇。それを取り巻く社員たちの態度に、彼らのクラリスに対する思いが滲み、さらに彼らや社長の言動から、劇中には登場しない社長夫人の性格や普段の振る舞いまで伝わる群像劇が成立する。

圧巻は、クラリス(ジェームズ・スチュアート)と我々観客は知っているが、ヒロインのクララ(マーガレット・サラバン)だけが真相を知らないレストランで起きた「行き違い」を修復してゆく二人の巧みな会話劇。そのやりとりの、ひと言ひと言にハラハラ、ニヤニヤさせられるみごとなクライマックス。

そして、この物語はすべてが終わってみると、新たに雇われた見習い少年から、聖夜の食事相手を得たかつてのワンマン社長に至るまで、登場人物みんなが一歩づつ前へと進む「成長劇」だっとことに気づくのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)jollyjoker[*] 袋のうさぎ 青山実花[*] 寒山拾得

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