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[コメント] アメリカン・ギャングスター(2007/米)

闇の黒人ビジネスマンとして成り上がるフランクの徹底した合理性と冷徹さには共感さえ覚える迫力があった。一方、腐敗した最前線をみかぎるように夜学に通う警官リッチーの上昇志向に、正義感以外の、何か他の理由を捜したくなってしまうところがこの映画の欠点。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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もちろんリッチー(ラッセル・クロウ)の正義感が、いったい何に根ざしたものかを説明しろといっているわけではない。そんな、言い訳のようなエピソードなど必要ではない。足りないのは、例えば『ダーティーハリー』(71年)のキャラハン刑事(クリント・イーストウッド)や、『フレンチ・コネクション』(71年)のドイル刑事(ジーン・ハックマン)のような、理屈など圧倒してしまう行動力が体現する正義感の発露だ。

衝動的獰猛さを見せるフランク(デンゼル・ワシントン)の行動には、負の発露としてのそれがあった。しかし、リッチー(ラッセル・クロウ)には夜学に通いながら司法界を目指す誠実さはあるものの、それだけでは巨額の取得金や賄賂の誘惑をはねつけるだけの根拠を考えてしまうほど、彼の行動には迫力が欠けている。本来、正義感に根拠などない。理屈を圧倒するだけの、有無を言わさぬ感情の発露としての行動が描かれてこそ、正義は説得力を持つのだ。70年代初頭の二人の男の上昇志向を描きつつ、その執念の描かれかたはバランスを欠き、ついぞ激突することなく娯楽映画は成立しなかった。

まさかリドリー・スコット監督と脚本のスティーブン・ザイリアンは、「司法こそ正義!とにかく正義は勝つ!」の良い子映画が撮りたかったわけではあるまい。

(評価:★3)

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