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[コメント] 世界(2004/中国=日=仏)

大海に向う河の流れのように若者は本能的に世界を目指す。そこに生まれた澱み。流れを妨げるものは何なのか。河は巨大過ぎて彼らにはそれが見えない。澱みは肥大し擬似世界の中で若者たちは小さな渦となり空回りし始める。終わりの見えない停滞と寂寥の渦。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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どこの国の若者にとっても、いつの時代でも「世界」とは希望の象徴である。押し付けられた希望の執着点の象徴「世界公園」のチープさと胡散臭さに気付きながら、その場を抜け出すことの出来ない若者たちの虚しさが痛切に伝わってくる。

共産主義のもとでの資本主義経済化、拡大しつづける地方と都市部の貧富差。急速に変化をとげる中国の歪みは北京という都市で行く手を見失い、あるいは故意に堰き止められ澱みとなって渦巻く。時代の閉塞感を一身に受け止めなければならないのは常に若者だという点においてジャ・ジャンクーが描く虚無は普遍である。

楽しむ側としての観客が描かれないきらびやかなショー。生活の場である高層マンション群の中に虚しく広がる高所から見晴らされた「世界公園」。若者たちの熱気と焦燥を内包しながら狭く小さく切り取られた楽屋やアパートの一室。未来へ向かって夜の高速道路をたった一台で疾走するかのようなタオ(チャオ・タオ)とタイシェン(チェン・タイシェン)を載せてた玩具のような車。

そのジャ・ジャンクーの執拗な視線と、街に溢れる生活音。さらに、そんな日常を挑発するかのように絡み合うリン・チャンの音楽が作り出した世界は痛々しいまでの寂寥感を醸し出していた。

(評価:★5)

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