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[コメント] 愛を読むひと(2008/米=独)

淡々と描かれているだけに、辛さが後に湧き上がりますね。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私はこの映画に最高点を与えて良いと思いました。素晴らしい映像、素晴らしい演技、素晴らしい演出、いずれも最高の芸術を見せていただいたと感謝しています。

色々高く評価したいところですが、まずは監督から。スティーヴン・ダルドリーですね。最近ようやく『めぐりあう時間たち』を見ましたが、あの映画も女優が素晴らしかったですね。ニコール・キッドマンはアカデミー賞を受賞しました。そして本作もケイト・ウィンスレットが受賞。女優を最高の状態に導く監督なのでしょうか。

めぐりあう時間たち』は時代を超えて重層する女性の心理を表現した映画でしたね。さながら最近日本で流行りの伊坂幸太郎さんの原作を彷彿とさせる作品でした。そしていずれの時代でもストレスを感じて生きる女性の苦しみと現実を”淡々と”描いていましたね。

思えば、監督デビューの『リトル・ダンサー』も、主人公は少年でしたが、女性的な側面がありましたね。そして淡々と描く手法は一緒です。感動的でありながら、その感動を極力抑制し、わざとらしくない演出をしていて好感が持てました。

この人はイギリス人ですね。だから、映画の中にイギリス人らしい皮肉な部分と規律が重視されているんですよね。

でも本作はどちらかというと、この作品の制作に携わったアンソニー・ミンゲラの色を強く感じました。それはレイフ・ファインズが出演しているからということではなく、『イングリッシュ・ペイシェント』のような戦時中の不可思議な縁についての発想と、画面からあふれ出てくる美しい風景。それは美術品を見るような落ち着きのある風景ですね。それをもたらした力には彼の力も多分に働いているような気がしています。2008年にがんで亡くなってしまいましたが、本当に惜しい才能を失いましたね。(合掌)

そしてやはり最高なのはケイト・ウィンスレットでしょう。先ごろ見た『レボリューショナリー・ロード』も見事でしたが、やはりアカデミー賞を受賞したこの作品における彼女の体当たりな演技は筆舌にしがたい素晴らしさでした。あのタイタニックの少しふくよかな少女がこれをど彩を帯びた美しい女性になってよみがえるとは!

数々の名演技を見せつけられましたが、とくに彼女の絶妙な表情の変化が見事でした。一番印象に残るのは、少年と小さな仲たがいをしてバスタブにつかりながら少年と表情だけでやりとりするシーンがありますね。この時の彼女の表情が実に素晴らしいです。イエスでもないノーでもない、でも困惑している中年女性の表情が滲みでています。素晴らしいなぁと感動しました。

映画はこの女性がナチスの看守をしていて多くの人々を死に至らしめた罪で無期懲役になるんです。彼女が真実を告げることができない理由。それは文盲だったこと。字が読めなかったから、少年に読ませていた。そしてそれを知った少年は監獄にいる彼女へ音読テープを送り続けます。そして送られたテープと図書館で借りた本でようやく字が欠けるようになり、彼への手紙を書く。

しかし出所間際に面会した少年との会話が途絶え、結局自殺してしまうんですね。このあたりの表現の理解はとても難しいものがありますけれども、結局自殺してしまいます。

なんで自殺したか?などというのは野暮なお話なんですが、この女性が一生かかって覚えた小説や詩は文字のすべてが、彼女にとっての幸せだった、ということでしょうね。

それにしてもこの映画の映像の素晴らしいこと。セット、照明、風景や家屋にしてもすべてが美しい。この美しさへの信頼があるから、少年と中年女性のセックスシーンもいやらしく感じないんです。

本当に素晴らしい映画を見せていただきました。

2010/02/13(自宅)

(評価:★5)

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