やっぱり、どう考えても陰謀としか思えない。なぜ「モンスターズ・イン ク」ではなく、「シュレック」がアカデミー賞の長編アニメ賞を受賞した のか。「シュレック」を見返したのだけど、例えばドラゴン退治に出かけ るときの畑の会話シーン、ほとんど工夫らしい工夫もない。たまねぎむく だけで。それにくらべ、「モンスターズ・インク」のスキの無さといった ら。

あえて理由を作り出すとすれば・・・、「モンスターズ・インク」は最新 技術を使ってはいるけれども、とても保守的だ、ということが挙げられる かもしれない。これを僕は、優れた点として捉えたのだけど、そうでない ひともいるのかもしれない。以下はあくまで僕の推論だ。

多くの人は、「モンスターズ・インク」と「保守的」という形容詞がどの ようにつながるのか、いまいちピンと来ないだろう。「シュレック」との 比較で説明するのがわかりやすいだろう。「シュレック」のラストシーン、 お姫様が変身する場面で、カメラが浮きながらグルリと回り込む。これを 見たときに、僕は「マリオ６４」のステージクリアを思い出した。ゲーム を引用しているのかは分からないけど、あのカメラムーブは、映画である より以前に、デジタルであり、らせんを描く方程式が目に浮かんでくる。

端的に言うと、「シュレック」は映画としてはこなれていない。が、それ がかえって新鮮に映るというのはあるのかもしれない。僕の中では、それ はすでにピクサーがやっていることだし、「マリオ６４」などの優れたゲー ムが達成したことだと思っていた。しかし、「もしかしたら」そうしたカッ トが、ある種のチャレンジと評価されたのかもしれない。

それに対して、「モンスターズ・インク」は大きく二つの意味で、保守的 な映画である。ひとつは物理的法則をかたくなに再現するという意味での 保守。もうひとつは映画的なカット割を忠実に再現するという意味での保 守的な部分。

例えば、扉の格納倉庫で、扉のひとつが地面に向かって落ちていき、地面 にぶつかってこなごなになる。このカットは実に禁欲的だ。カメラはモン スターの視線に固定され、扉は重力に導かれるままに落ちていく。ここで、 「パールハーバー」ばりの迫力の落下場面（カメラが落下に追随する）も 可能だ。しかしそれをやらない。もちろんやる必要はない。僕はここで、 あえてモンスター視線にカメラを固定するところに、ある意思を感じるの だ。

「シュレック」のような、「デジタルだから可能になった」とか、「アニ メだから出来た」という映像をあえて封じる禁欲的な姿勢を「保守的」と 表現するとき、それを評価するかしないかという問題は、今のアカデミー 賞にあっては、かなり微妙な問題となってくる（のかもしれない）。

20周年ということで「ET」がリバイバル上映されている。もし見ていない 人がいれば、ぜひ見ることをお勧めするし、一度見た人も再度見直してほ しいくらいだ。「モンスターズ・インク」も引用しているいくつかのシー ンについて、「禁欲さ」という点で通じるものがあるからだ。「ET」では、 今に比べればまだ高度な特殊撮影はできなかった。スピルバーグはそこで、 非常に基本的な映像手法でもって、ETの魅力を引き出そうとしている。そ してそれは、その時代には確かに「限界」だったのだが、今見みると、特 殊映像という手段を禁じ手にした、「禁欲的なもの」に感じられてくる。

ドアの向こうの暗闇が怖い、という心理が今も昔も変わらない。「モンス ターズ・インク」は、ETも含めたさまざまな古典的映画の引用も織り交ぜ ながら、この種の、非常にベーシックなアプローチを試みている。僕はこ れを「禁欲的」と表現し、また「保守的」と表現した。そしてだからこそ、 アカデミー賞を取るべき映画だと感じたのだ。この映画には、「シュレッ ク」がアンチ・ディズニーを目的に撮られているのとはまったく次元の違 う志があり、映画好きが楽しい映画を作る、というシンプルな目的と行為 があるだけなのだ。

「モンスターズ・インク」は「ET」の正しい後継者であり、過剰な特殊映 像への誘惑を自ら絶った、正しい保守本流映画なのだ。