[コメント] アンダーグラウンド(1995/独=仏=ハンガリー)
第一章は、主に1941年のナチスによる空襲場面から、1944年の連合軍による空爆までが描かれるが、連合軍の方がナチよりも激烈だった、という字幕がある。第二章は1960年代から、チトーの葬儀まで、第三章は主にユーゴスラビア内戦、1990年代を舞台とする。
ちなみに、全編要所で、サイレント映画風の黒地に白文字の字幕(インタータイトル)が挿入される。あるいは、ニュースリール等の記録映像(チトーや、各国の首脳の映像など)が挿入されるが、本作の主要登場人物がスクリーンプロセス合成で映り込んでいる映像にしつらえられているものも多く、この処理も面白い。
主人公はマルコとクロという二人の愛国者と、この二人いずれからも愛される女性だが、柔軟にナチスにも与(くみ)するヒロイン−ナタリアの3人と云えると思うが、マルコの弟で、冒頭では動物園の飼育係りだった吃音者のイバンと、彼に懐いているチンパンジーも重要なキャラクターだ。ちなみに、私にはクロが最も目立つヒロイックな存在に思えたが、クロというのはニックネームであり、日本語の「黒」を表していて、劇中の科白で「クロ」と聞こえる呼ばれ方はしていない。セルビア語で黒を表す単語で呼ばれているのだと思う(私には「セルニ」と呼ばれているように聞こえた)。
まずは、開巻クレジットバックからエンディングまで演奏されるブラスバンドの音楽が強烈に印象に残る。また最初の空襲場面では主に動物園の様子が描かれ、こゝも目を瞠る造型で、オープニングからもう既にただならぬ雰囲気のぷんぷんする作品なのだ。
全編に亘り、もの凄い緊密度の画面造型が連続する映画だが、一方で、コントのような明らかなコメディ場面も度々挿入されて、このあたりのバランスも見事なので、これだけの面白さが持続しているのだと思う。画面造型で特筆すべき、というシーンは無数にあるけれど、中でも私があげておきたいのは、第一章最後の連合軍による空爆の最中の、ナタリアとマルコのダンスシーン、第二章の地下生活の中で行われるクロの息子の結婚パーティの顛末から、映画「春は白馬に乗って」撮影現場のカオス状態への発展、そして第三章の、セルビアとクロアチアとの戦争を背景に、教会と十字架のある広場を舞台に演じられる主要人物たちの帰結の見せ方だ。特にこの終盤の十字架の回りを炎に包まれた車椅子が回転する場面は戦慄を覚える。爆撃によるものか、磔刑のキリスト像が天地逆さまになっ ているという部分にも震撼とする。あと、各章で必ずドナウ川が登場し、重要な見せ場を作るのも良く、特にエンディング、ドナウ川の岸辺でのファンタジックな大団円にも唸ってしまう。
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