[コメント] ターミネーター(1984/米)
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当初、サラ(リンダ・ハミルトン)があまりにもその辺にいるバカなティーンエージャー然としていて、その非ヒロイン性に戸惑う。「未来」に恋人がいないカイル(マイケル・ビーン)に同情してベッドインするサラの行動など、殆ど童貞の妄想のような展開。B級的、あまりにB級的。
だが、そのサラの成長劇が、短いシーンでさり気なくも効果的に描かれている点が見事。まず、負傷したカイルに包帯を巻いてやるサラ。「よく出来てる」と褒めるカイルに「初めてやったのよ」。この些細な遣り取りで、サラが、いざとなれば戦場で役に立つ能力を発揮する人物であることが垣間見える。また、終盤の闘いでは、負傷したカイルがサラに、自分を置いて逃げろと促すのを彼女は拒むが、その態度は「貴方を置いてなんて行けないわ…」といった弱々しいものではなく、「歩きなさい!」とカイルを叱咤する態度。そこには、息子に指導者としての知恵を授けたというサラ自身の、指導者としての厳しさや強さと、仲間を見捨てない責任感が見てとれる。観客は、サラの勇姿を介して、未来の指導者・ジョンの姿を思い描くことが出来る。
こうした、映像によって観客の想像力を喚起する演出が優れている。それはこの映画が、現代を舞台にしつつ、限られた条件下で「未来」を描くという課題を、巧くクリアした結果でもある。
未来の、機械による人類の制圧を象徴する、キャタピラーに無数の頭蓋骨が踏み潰されるカット。このカットが現代のシーンで、カイルが工事用機械のキャタピラーを目にした時にカットインすることで、現代と未来が地続きになる(ターミネーターが運転する車が、玩具のトラックを踏み潰すカットもある)。更には、ターミネーターも最終的には、鋼鉄で出来た骸骨としての姿を露わにし、人類によって生み出された機械が人類を模倣する、という形で、機械と人類もまた地続きとなる。そのターミネーターが、最後は工場のプレス機によって潰されるという結末。「未来/現代」「機械/人類」の成す円環と循環。後に『マトリックス』シリーズがオタク的な理屈っぽさと執拗さで延々と描く世界像を、パワーマシンならではの単純さで端的に描く『ターミネーター』。
また、何といっても本作はラストが感動的だ。妊娠しているサラは、生まれ来る息子の為に、彼の父・カイルのことを、テープレコーダーに向けて語る。彼女が車を停めてガソリンスタンドに寄ると、そこの少年が勝手に写真を撮り、「お金を貰わないと叱られる」。そうした買ってやった写真は、サラが知る由もないが、カイルが未来で手にしていた当の写真なのだ。「テープレコーダー」と「写真」という、目と耳に訴える記録媒体が、現代と未来を接続し、循環させる。
カイルはサラに、「理由は分からないが」ジョンから彼女の写真を貰っていたと言うが、その「理由」は、カイルがジョンの父であるからだ。またこれは、ジョンがカイルにその事実を告げなかった理由について、観客に想像の余地を与える(自らの死を知ったカイルが時間遡行を断ったら未来が変わる、或いは父に、死ぬ運命を知らせるに忍びなかった、等々)。写真のサラが、カイル曰く「悲しい顔をしていた」のも、彼女がカイルの死を悼んでいたからだ。自分を悼んでくれている表情を愛したカイル。先の、取って付けたような安易なラブシーンもここで、「サラの表情」という映像的な要素によって、必然としての運命の円環を成す。
映像的な納得という点では、ターミネーターも見事。その筋骨隆々の肉体に革ジャンを纏うことで、マシーンとしてのクールな強靭さを示す。そして、肉体そのものを用いた格闘戦ではなく、専ら銃を武器にすることで、マシーンとしての無機質さも際立つ。銃がガシャガシャと鳴る音が、「マシーンとの闘い」を演出する。
「力強いゾンビ」とも言うべきターミネーターの不気味さは、ラストの二度の復活によってもより印象づけられる。あれは単にサプライズ的な驚きをもたらしているだけではなく、これでようやく破壊できた、と思えた時になおも甦るターミネーターの強靭さと、命令を実行する為に作動し続ける機械の無感情な執拗さという、ターミネーターのキャラクタリゼーションに貢献してもいるのだ。
工場でサラとターミネーターが一対一で闘うシーンは、機械の手がサラのすぐ傍に迫る恐怖演出が光る。狭い場所を潜るサラの顔の下から照明が当たるカットや、画面右側に追い詰められて脅えるサラの顔にターミネーターの手が触れようとするカットなど、『エイリアン2』にも酷似したものがあった気がする。後者のカットは『エイリアン3』だったかな?
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