『ファイトクラブ』と『アメリカンヒストリーＸ』とを足した位の映画なふりしてるけど、『アメリ』と『ペイ・フォワード』を足した映画というのがホントの所だろう。お手軽な映画。｢カンコピ｣｢リスペクト｣なんて若者用語があんなに頻繁に出てくる会話は、いかに若者でもそうそう出来るもんではない。北川ドラマじゃあるまいし、じいさんはあんまり無理しなさんな。一言で言えば窪塚に在日問題を｢ダッセー｣って如何にかっこよく言わせるか、それだけの為にあるような映画。

今の世代、日本には韓国に対しての特別な感情はもうない。何十年前の映画なんだこれは。今を若者として生きてる俺に言わせれば、当たり前の事を当たり前に言っただけにしか思えん。この映画が言ってるのは｢在日という酷い差別が深刻である。でもそれはもうすぐ乗り越えられる｣でしょ？　でも実際は｢在日差別という特別な問題はもうほとんどないに等しいが、差別自体は永遠になくなることはない｣が正解。この映画は在日問題を重く見すぎ、差別を軽く見すぎ。人は生まれた瞬間から死ぬまで人を差別し差別され続ける。んなこと知らないわけじゃないだろうに。杉原が感じていた差別は別に日本か韓国かって問題じゃなくて、太った女の子がいればからかわれるし、変な名前の子がいれば馬鹿にされるってのと同次元。それと国籍による根無し草の悲しさの二つを足して｢在日問題｣として括ってるだけ。差別としてじゃなく、アイデンティティ喪失の話としてなら、在日に限らずどこにでも起きている事で、今なら仕事で来た在日カメルーン人も、在日韓国人も、抱えてる問題にそれほどの差があるとは思えない。

だから在日問題を特に採り上げるなら、｢いっそ緑色なら良かったのに｣ってセリフの部分をもっと掘り下げてほしかったな。カメルーン人にはない悩みだし。日本人になるのか、日本人と戦うのか、そこが問題だ、みたいなね。セリフ一つ言わせ終了は寂しい。そこが一番聞きたいとこなのに。｢日本でも韓国でもなく俺は俺｣なんて何も言ってないに等しい。

だから民族学校の描写は面白かったよ。｢この子はきっと同胞の為に・・｣ってセリフ、言いそうだもんな。在日問題は日本じゃなくて韓国側の問題だよね。日本人には韓国だけを特に差別するような感情はもうない。在日でも本人にその気があれば日本でうまく溶け込むのは難しくないはず。ただし母国がそれを許さない。韓国から来てるＪリーガーとかも苦労してるらしい。日本人があんまり仲良くしてくれるもんだから、すっかり敵対感情が失せて考えが変わったが、韓国の選手と一緒にいるときは｢卑怯な日本人なんかに負けるな｣って言わなきゃいけない。んなことは無意味だと思っていても、それを言うと裏切り者扱い。つらいねえ。そういう意味でこの映画は日本人が撮った日本の映画なんだね。

国籍なんて、出身なんて、名前なんて、って言うけどさ、信じる神もなく、抱える殿様もなく、縛られる名前もなく、帰る場所もない人間なんて、どれほど脆いものか。今の日本の迷走を見れば分かりそうなもんだ。信じる神がいなければ宙に浮く教祖を求める。何が正しいか自分で決めなきゃいけないなら代わりに｢定説｣を頂くまで。人間なんてそんなにつよかーねえよ。散々｢自分らしさ｣｢周りに縛られない幸せ｣を追求した結果が、メールを日に百回打って繋がり確認しながら雑誌片手に斬新なファッションが売りの教祖様を真似してる有様。年寄りはそういう若者を白い目で見るけど、自分らは持ち上げるべき殿様と縛られるシキタリを持って生まれたからこそ言えるわけで。日本に勝つことだけを生きがいにする韓国人のあのＷ杯の熱気を見た？　ある意味羨ましい。

在日という足枷を背負って生きるってのも、それはそれで結構幸せかもよ。それくらいの覚悟で作ってくれよ。真面目な映画やるならね。在日というネタを使った軽い青春映画としてなら十分評価できるけど、微妙に在日をメインに据えて社会派な映画のふりしつつ｢これは恋愛の話だ｣なんて自分から先に言えば文句ねえだろ的な発想が甘すぎる。娯楽青春映画としては４点、在日映画としては２点、それを合わせ技で５点なふりをするから、印象悪くて３点。

最後に柴崎の拒否場面について。かなり不自然な描写であり未だにんなこと言う奴いねえよバーカ、と言いたい所だが、初めての時に直前で改まってあんなこと言われたらびびっても不思議ではない。基本的に差別感情のない人でも、自身に余裕のない時に土壇場でそういう反応を示す事もある。それを差別だ差別だと言って心を閉ざすのはもったいない、みたいな事を表現しているとしたら大したものだし、実際そう言いたかった節が感じられるのだが、ただ単に大好きな人に差別されてショーーックってイベントと明確に区別されていない所が甘いというかズルイというか。惜しいな。