[コメント] 日本の黒い夏―冤罪―(2000/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
94年6月に起きた松本サリン事件で、逮捕すらされないほど証拠も何もないのに、警察やマスコミ報道で犯人扱いされた第一通報者。このえん罪事件を社会派サスペンスの巨匠、熊井啓監督が中井貴一、寺尾聰、石橋蓮司といった芸達者をそろえてとったドキュメンタリータッチの作品。
事件から1年後に高校放送部の取材という形式で、ともかく早く早くと、よくわからないままロクに裏付けもなくタレ流し報道をして犯人に仕立てあげた実態を鋭く告発している。
同時に一般的な告発にとどまらず、純粋な若者の「それで本当によかったのか」という率直な問いかけを無視できない、報道陣の葛藤もしっかりと示している。
この作品では、同じ監督の『海と毒薬』と似たような構成で、実際にサリンが散布されて大惨事となった事件の再現を後半に持ってきているが、そのすさまじさには、やはりぞっとさせられた。
またテーマとの関係で言えば、自らに関係する裁判を妨害するために、その判事の住居の周辺に毒ガスを散布して殺害しようとする、日本の犯罪史上初の狂気の沙汰に直面して、警察やマスコミがすぐには事件の全容がつかめなくて、誤りをおかすことはかりにあったとしても、大切なことはそれを、誤りとして率直に認めてなぜ、どこでそれが起きたのかを検証することにあるのではないか、ということを感じさせた。
もう一ついえば、『海と毒薬』では見終わって、身の毛もよだつような暗闇の中に沈んでいくような感じであったが、この作品では、高校生の視線を借りながら、またややカッコよすぎる中井貴一のせいかもしれないが、光があるからこそ暗闇を、それとしてとらえ、対じすることができるという感じがした。これについて、『海と毒薬』での鬼のように厳しい視線から、人間への深いところでの信頼への、熊井監督の転機、というのはうがちすぎだろうか。
このようにいろいろ考えさせられた作品でもあったが、映画としても迫力にみちたもので、まぎれもなく「名作」といえる作品であった。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (9 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。