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[コメント] 夕陽のギャングたち(1971/伊)

失くした希望をもう一度拾う男たちの姿を、感傷たっぷりにマイトの爆破にまぎらせて描く。繊細に表現された粗野、ユーモアと哀愁、叙情的な叙事詩、大作にして「ふせろ!バカ」というタイトル。このコントラストがたまらない。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
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生まれも育ちも生きる目標も違う男たち、ファンとジョンの好一対というべきコンビの魅力、キャラクター造形の素晴らしさ。作品を最後まで飽きさせず引っ張るレオーネ監督の緻密な構成。そしてモリコーネの極限までにエモーショナルなテーマ曲。まったくこの作品の魅力を書くのに枚挙にいとまがない。

インテリなのか、インチキ男なのか、悪党なのか、そう思わせといてやっぱりタフガイなのか、どのタイプでも「これこそコバーンならでは」と形容されてしまうジェームズ・コバーンがここではニヒルなタフガイを演じて見せれば、野卑な表情とでっぷりした尻でメキシコの強盗一家を率いるどこから見ても小悪党に化けたロッド・スタイガー(私はこれがこの人の素だと思って後日『質屋』を見てびっくりした。)の周到に作りあげられた役柄・演技。とにかく素ではなく作り上げられた人物像でありながら、まったくジョンとファンでしかないというべき自然さは見事の一言。

「俺と組もうぜ」と擦り寄るファンをジョンが鼻であしらえば、動物的な勘と当意即妙さで、気がつくとまたジョンの傍で愛想笑いをしているファン。こんな調子で二人が接近していくまでのユーモラスさと話のテンポの小気味よさ。

そしてその痛快さが頂点を迎えるメサ・ヴェルデ銀行の襲撃シーン。「クワックワッ」と変なスキャットが入る軽い行進曲風のBGMとともに政治犯を連れて脱走してくるファンの滑稽さ。いっぱい食わせやがってと食ってかかるファンを英雄万歳!と持ち上げる二人にとっての幸福な瞬間が沸点に達するや、そこに二人の将来の敵ルイス大佐が戦車を率いて唐突にわってはいるシーンの切り替えの鮮やかな転換。そして映画史上に名を残す橋の爆破シーン。甘美なメロディが爆破とマッチする、不思議な愉悦にふるえる映画的体験。

観客を圧勝の喜びに浸らせた直後、一転して洞窟での悲劇への切り替え。子供の母親が誰かも何人いるかさえわからないと嘯いていた男が「初めて子供(遺体)の数を数えたよ」と嘆くのを見て、自分の戦いにファンをまきこんでしまったという慙愧から、いままでファンを舐めていたような顔つきが始めて消えていくジョン。やがて理想を追う革命家は、地に足がついてるというだけが能の男から、「字が読めるやつの革命」の矛盾を指摘され、「俺にとっては家族が国だ」というその男にとっての国を奪ってしまったことを以って、ついに二人は対等の立場に立つ。そして二人は最後の戦いへ向かっていくのである。出会いから始まってここにいたるまでの、何度も何度も鮮やかに転換していくドラマの振幅の巧さ。レオーネ監督の緻密な仕事ぶりを感じる。

ジョンはファンが革命に身を投じていくのを見て、もう一度だけ希望を拾うことができた。そしてファンは家族をすべて奪われたが、仲間を得るという次の希望を拾った。一瞬ではあったが。

あんまり好きなものでただのエピソードの羅列のようになってしまった…。一点だけひっかかるとしたら、ジョンが最期の時にコミットしたのが、結局はファンではなくアイルランド時代の恋人と同士への思い出だったこと。そしてファンを置き去りに勝手に逝ってしまうことである。ここにジョンとファンのお互いの思いの温度差が出てしまうというところかな。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ひゅうちゃん まー ぽんしゅう[*] 3819695[*] ゑぎ[*]

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