[コメント] 男はつらいよ 翔んでる寅次郎(1979/日)
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基本的に寅さんというシリーズは、男が女性に好意をきちんと言葉にして伝えると、その恋は成就する。そうでない場合は、結末は必ずしも描かれない。寅は、他人に助言する場合はそう言うので、少なくとも頭では理解しているはずだが、一度も言葉にしたことがない(多分これから先も)。また、女性が先に好意を口にした場合は成就されないという、まるで古事記みたいな、おそろしく原日本的な型をとどめた作品なのである。
本作でもそれが踏襲されている。布施明の恋が成就するのは、ほとんどそれだけだと言っていい。そして寅はまた何も言わない。ただ、言わない理由は、ある程度描かれている。博による、「フラれてから、(惚れてたことに)気づくんじゃないかな」という理解を助ける親切なセリフもあったが、マドンナ=桃井かおりとは歳も離れており、始めの内は純粋にサポートしてあげているだけなのだ。これが、彼女自身が寅への好意を純粋に表すこともあって、少しずつ、というかいつの間にか、恋心に変わってしまったのである。
最終的には、ひとみ(桃井)のセリフが良かった。「私はいま、邦夫さん(布施)の幸せを考えています。前回は、私のことしか考えていませんでした」。結婚ということの本質をついたセリフではないだろうか。そして、他人の幸せを第一に考えること、これを教えくれたのが寅さんだと言うのである。寅ファン冥利に尽きる、幸福な論理的帰結である。寅自身にとっては必ずしも幸福ではないのだが。
正直、桃井かおりの雰囲気が寅さんの作品世界に合うか疑問だった。いつも通り、桃井は桃井であり、合ってなかったとも言える。だがこの、なんと言うか、見た目の斜めっぽさに似合わぬ純粋さ、みたいなものは、彼女でなければ表し得なかったかもしれない。その意味で桃井は本作の成立に不可欠だった。また、製作陣がこういうシチュエーションを用意できたことは、桃井にとっても良かったと思う。あと、布施の美声が聞けたお得感。
80/100(19/03/23見)
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