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[コメント] 切腹(1962/日)

カミソリの切れ味。10代の頃にはじめて観て、なんだかよく判らんがド迫力の、完璧なものを観たような気がしたものだ。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







若き浪人・千々岩求女が大小を竹光に替えるほど銭に苦労していた話。求女が人足の日雇いに並び、断られる場面もある。しかしこれであーもう切腹狂言するしかねえ、となるのは性急すぎないか。浪人とはいえ大小ぶらさげたオサムライ、手を汚す覚悟があればどうにかなったんじゃないのと思う。まあでも余計な話が長くなるし、「子、のたまわく」なんて寺子屋やってるピュアな青年には半グレじみた発想はなかったのかもしれない。

求女は優しく弱い。映画が弱き者の側に立つのはいい。いいんだが、それにしては仲代達矢が強すぎる。「達人の丹波哲郎くんにはさすがに手を焼いた、ンムッフッフ」なんつって切り落とした丹波チョンマゲを放り投げる。狂人だし、超人でもある。

関ケ原を知る老ガンマン仲代が、よくも娘婿をやってくれたな、てめえの命を貰いに行くぜと殺しの才能発揮しまくりならシンプルな西部劇で納得できる。しかし三國連太郎に演説をぶつ仲代は、井伊家、武士道、幕府、あらゆる体制をシュートしてやまない革命家じゃないですか。そんな彼の武器が「異常に剣の腕が立つ」ことだけなのは、実に悲しい。単身乗り込んで演説もぶった、丹波もやっつけた、ザコも斬った。でも三國連太郎には手が届かない。かといってニューシネマ的陶酔ともちょっと違う無常感。仲代は死ぬ。

この映画は関ケ原から10何年だから17世紀だ。18世紀には「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」の「葉隠」が書かれる。これがメチャクチャ狂った書物でして、お前、死ね。ということしか書いてない。大志のために命を張れとか、目的達成のために死ねとかじゃない。大志とか目的とかどうでもいい。とにかく死ね。すぐに死ね。死ぬことが大事なんだ。死ぬことだけが真実なんだと言ってる。頭がどうかしてるわけだ。武士道は巨大な文化体系で、ちょっと裏に回ったら暗黒の底なし沼が広がっている。ぼかー20世紀に生まれてよかったです。この映画が描いた問題は、かなり残ってるけど。

一方でこの映画、仲代の「これ(切腹)のことでござるかな」のテンドンなど局所的にちょっと笑わせにきてる節もあって、どんな顔して観ていればいいのか判らなくなる。橋本忍のイタズラなのかな。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)アブサン けにろん[*] トシ[*]

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