[コメント] カード・カウンター(2021/米=英=中国=スウェーデン)
続いて、刑務所。その遊興室。トランプをする囚人たち。「案外、自分に合っていることに気づいた」という終盤でも反復されるモノローグ。アウレリウス「自省録」を読む主人公のウィリアム・テル−オスカー・アイザック。
出所した彼が、モーテルの部屋に入り、壁の額縁を外して、電話器も外して、スーツケースから、白っぽい布(シーツ)を取り出す。次のカットで、部屋中の家具(机とかベッドとか)や電気スタンドが白っぽい布で包まれている。これも変態っぽくて笑ってしまった。タイトルのカードカウンターは、場にある総てのカードを記憶して数える技術を持つ人、のような意味らしい。ラ・リンダ−ティファニー・ハディッシュから「カジノ側に嫌がられるでしょ」と聞かれたアイザックは「大勝ちするカードカウンターはな」みたいな回答をする。そう彼は、大勝ちしないように努め、目立たないようにしているのだ。これも彼のストイックさであり、偏執的なところだ。他にも、半裸で書き物をしていたかと思うと、スーツ姿でベットに寝ていたり、といった演出にも、やっぱり変態だ、と感じた。
さて、本作は、プロのカードプレイヤーであるアイザックと、彼の過去の因縁(軍事刑務所に収監されることになった経緯)を調べたという若者、Cのカーク−タイ・シェリダンとのバディものとも云えるし、2人にとっては共通の仇と云ってもいいゴード少佐−ウィレム・デフォーへの復讐譚とも云えるだろう。また同時に、アイザックと、出資者との仲介役になるラ・リンダとの関係も描かれる。
先にちょっと気になった点を書くと、大会の各会場にいる、ミスターUSAというプレイヤーとその取り巻きが実に鬱陶しく、当然ながら、こいつらにギャフンと云わせるカタルシスがあるだろうと待っていたのだが、これを脱臼ワザで外されたのは、イケズな展開じゃないか。ミスターUSAに一泡吹かせた後に、タイムを取っても良かったんじゃないか。あるいは、就寝中のアイザックの瞼が動く、ラピッドアイムーブメントのショットの後、拷問施設の夢(というかほゞ回想)が挿入されるけれど、この変な画面、魚眼レンズの映像が左右にあるようなショットは嫌い。気持ち悪く感じさせるのが目的だろうが。
そして、実を云うと私が最も良いと思ったシーンは、アイザックとラ・リンダ−ハディッシュが、ライトアップされた公園を歩く場面だ。2人からティルトアップしてぐるっと光の天井を一周パンするように撮ったショットから、どんどん上昇移動して、ライトアップの全貌を俯瞰で捉えるショット。何という美しさ。
あと、アイザックが、シェリダンをモーテルに連れて行って脅す場面の緊張感も特筆すべきだろう。拷問道具をチラッと見せてから、札束をフロアに叩きつける演出。これも異常な怖さなのだ。同様に、終盤のアイザックとデフォーの対決シーンにおけるオフ(画面外)の演出も怖い。さらに、エンドロールの背景のショットは、ラストカットがストップモーションしたものかと思って見ていたのだが、微妙に揺れているって、エンドロール中、ずっと同一態勢を強いていたということだ。ポール・シュレイダーってやっぱり変態。素晴らしい!
#ミネソタ・ファッツという人物が出て来る。『ハスラー』への言及も。
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