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[コメント] あのこは貴族(2020/日)

かなり、かっちり作られていて良いですね。冒頭のホテルの会食シーン。流麗なカット割りと、引き気味の画角が気持いい。写真店での門脇麦の撮影カットでタイトルイン。これも絶妙のタイミングだ。
ゑぎ

 実は、最初、門脇のキャラクターはアホなのかと思ったのだが(今でも否定しきれないと思うが)、松濤のお嬢様、というステレオタイプが、ユーモアをもって(それは批評性も含めて)、演出されているのだ。

 対して、もう一人のヒロイン、水原希子は、富山(立山連峰が美しい)の実家に帰省するシーンで登場し、実家に着くとすぐに、ジャージに着替えて、ベッドに横になり昼寝してしまう。これは、常にシャンと背筋を延ばしている門脇に対しての見事な対比だ。庶民はすぐに横臥するのである。

 全体にとても豊かな映画だと思うのだが、瑣末な部分かも知れないが、エキストラレベルの出演者の演出についても、きめ細かである、あるいは重要な見せ場がある、ということも、その豊かさを感じさせる要因の一つだろう。例えば、隅田川べり?で、門脇と石橋静河が会話するシーン。帽子を飛ばして転がしてしまったカップルが描かれる。石橋が転がって来た帽子を拾ってやるのだが、プロットを合理的に進めるのに、こんな演出はいらないのだ。あるいは、門脇が、初めて高良健吾に会うレストランの前にしゃがんでいる男性。あるいは、門脇が水原の部屋(内幸町からチャリで帰れる、東京タワーが近くに見える立地)から帰る途中で、橋の向こうの女子2人が、手を振ってくる場面。こゝも、まったく不合理なシーンだが、それでも、この女子2人が、水原と同様に門脇へ与えた影響は大きいのだと、そして、映画はそれでいいのだと、納得させてしまうのだ。

 ラスト近くになると、門脇もソファに横臥する演出が出現するようになり、彼女も複雑な造型になっていく。しかし、エンディングは二人のヒロインそれぞれのリスタートが爽やかに描かれ、気持ちがいい。ラストの門脇は、タイトルインの正面カットを思い出させるカットでもあるが、もうアホではないのだ、と確信させる。最後に書くのは気が引けるが、高良健吾も狡猾さと優しさがない交ぜになった複雑な造型で周到だと思う。これを中途半端と取る向きもあるかも知れないが。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*] シーチキン[*] ペペロンチーノ[*]

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