[コメント] ジョーカー(2019/米)
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上映開始から5日。わりと早めに見に行けたことを喜んでいたのに5日で2万件以上のチェックがついてるってどういうこと!?まさに空前の大ヒットですね。
ジョーカーと言えば『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーが頭に浮かびますが、本作はジョーカーがなぜ生まれたかという誕生譚となっています。 その上で本作は結構いろんな作品をパロってるわけで、ノーランの『ダークナイト』なんかはまさにあそこに至る前のストーリーと言われても悪くないと思いますし、クライマックスのあのカットは間違いなく『ダークナイト』でのあの名シーンを再現してますよね。それだけでなく『タクシードライバー』や噂によると『キング・オブ・コメディ』も未鑑賞ですがインスパイアされてるようですね。そういう所も楽しみどころの一つだったように思います。
ジョーカーの生い立ちは至って平凡で、というよりも不幸であったことに間違いない。癖とも病気ともとれるあの笑い方。つらくても悲しくても笑い続ける。ものすごく耳に残る笑い声。心からの笑いでないことなんて言うまでもなくわかるし、だからこそ冷たい目を向けられるというのもある。 「道化を演じてんじゃねえよ。」 いやいや、俺は人を笑わせたいだけだよ。コメディアンなんだ。つらくても悲しくても俺の笑顔でハッピーになるんだ。
でも所詮それは冷たい目を向けられて、蔑まれ、笑い者にされるだけなんだと。むしろ存在すらしないように扱われてしまうのだと。自分がどうあろうとしても、どんな妄想を描いたとしても、現実の社会はもっともっと冷たくて厳しいものなんだと。そんな切なくて、重くて、どうしようもない思いを抱えて、ネジが少しずつ外れていく。
要は視点の問題だと言っていた。悲劇と喜劇は表裏一体。主観で捉えたら全てが喜劇だ。あんたらがどう思おうが知ったこっちゃない。どうせ俺らみたいな存在がどうなろうがその辺で死んでようが知らんぷりなんだろう。俺らが抗議してんのに、あんたらは喜劇王見て笑ってんじゃねえか。無視してんじゃねえよ。喜劇であるかどうかは俺が笑えるかどうかだよ。そんな冗談笑えない、だって?ほら、笑わせてやるよ。
マレーという存在はまさに社会の典型であり、同時にアーサーにとっての唯一の憧れでもあった。あの舞台に立って、多くの人を笑わせてやりたかっただけだったんだ。それなのに上流階層のマレーは俺のことを平気でコケにして笑い者として吊るし上げてきた。あれが引き金になったことは言うまでもない。そして、だからこそあそこであいつを自分が笑える行為で打ち崩さなければならなかったのだ。あの一撃で外の声や存在に見向きもしなかった連中は恐れを抱くだろう。社会に投じた衝撃的な一石だ。
ほら、笑えよ。いや、笑えねえよ。飛び交う悲鳴。騒ぎ立てるニュース。笑えねえと思う人が多い方が安全だ。だけど笑えるくらいに打ち震えている連中もいるだろう。だから危険なんだ、この作品は。ジョーカーの行為を肯定はできない。道徳的に間違いまくってる。だけどそこに感情移入するとどうしてもジョーカーが悪いと思えない心も芽生えてしまう。それこそ『タクシードライバー』のトラヴィスみたいな主人公を描いた作品って今までないわけではないし、マレー役にデ・ニーロを持ってきたのはまさにそういう意図なのだろうけど、ジョーカーという象徴が与える影響はやはり大きいように感じた。ただ不幸な生い立ちなだけだったのに、社会によって作られた怪物なのだから。
本作をストーリー以上に魅力を持たせているのは間違いなくホアキン・フェニックスの演技でしょう。あの恐ろしく渇いた笑い。笑いに込められた感情の深さ。素晴らしい演技だったと思う。 それに加えて特に印象に残ったシーンは二つ。長い階段を生き生きと踊りながら降りてくる姿。そしてラストの笑顔を作り上げる姿。個人的名シーンだ。
ラスト、わかったような気でいる観客を一蹴する感じがたまらなかった。
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