[コメント] 苦い銭(2016/仏=香港)
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昔の日本の出稼ぎや集団就職もこんなものだったのだろうなあと思いながら観た。雲南省から浙江省まで一昼夜かかっているが、距離は全然違うにしても、昔の汽車なら日本でも時間的にこんなものだった。この列車内の疲弊した空気感からして引き込まれる。
女工哀史みたいな切り口だろうという見立ては全然違っていて、工場の過酷な労働はほとんど強調されない(先に帰省してしまう兄弟の件ぐらいか)。工員たちは貧乏だが工場内は明るい。嫌になった者も他に職を求める。職はいくらでもある。だから閉鎖感はない。日本の高度成長期の工場街もこんなものだっただろうというリアルがある。
縫製工場で安物の子供服などが古いミシンで生産され続ける。この光景は昭和40年代頃までは日本のものであった訳だ。私の田舎町の縫製工場はほとんど閉鎖されてしまった(授産施設なども転換を強いられた)。低賃金は中国人たちを痛めつけるだろうが、痛めつけられているのは日本人も同じである。グローバル経済は連動している。映画の労働者たちはみんなスマホ持っているし、戦後の日本映画に比べてあんまり貧しそうに見えないのである。
町の全体像は示されない。ただ工員たちの目線に映るものだけを捉え続ける。被写体は横すべりし続け、この連鎖のセリーこそが町を覆うのだろう。ニュース映画なら10秒で済ませるカットを本作は10分、映画は追い続ける。私のお気に入りは桂枝雀似の、酔っ払って女工員に絡みまくる男。社長の文句云いまくるが社長の前に出ると突然に小さくなるのだった。
その他の人物たちも皆、逞しさが印象に残る。やんちゃな中国人たち。日本人もかつてはああだったのじゃないのだろうか。収束の夫婦仲直りはちょっと出来過ぎだが感じいい。ラスト、あの姉ちゃんは、縫製工場の町の成果品をどんな思いで見つめるのか。もしかして、あの梱包を解いて服を盗もうとしているのだろうか。劇映画ならこの先を映すのだろうが、余韻に留めるのはドキュメンタリーの呼吸という気がする。満腹の三時間弱。
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