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[コメント] Seventh Code セブンス・コード(2013/日)

単純を窮めた原-映画的なプロット上で非-心理的なヒロインが格闘アクションを演ずる。すなわち『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』の姉妹篇。ボディ・アクションの鋭さはさすがに三田真央より劣るにせよ、人格が「空虚で満たされた」前田敦子黒沢清の女優たる資格を十二分に有する。
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**ネタバレ注意**
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どこを切っても黒沢清の映画である。

前田が鈴木亮平の車を追うロングの第一カットから「複数の(エキストラや背景でない)有意義な主体に、同時に異なるモーションを与える」という得意のアクション演出で、瞳に快い緊張が走る。ただし、ロングショット構図の一枚画面としての強さは一九九六年〜九八年をピークに右肩下がりを続けているということも指摘しておかなければならないだろう。能力や感覚の衰えというよりも、演出家の重視対象が移り変わってきたためだと私は思っているけれども(ミザンセヌより光に感銘を受けることは近作のほうが多い)、ともかくTVドラマ『贖罪』を含めて『LOFT』以降ほとんどの黒沢作品の撮影を担当する芦沢明子の仕事としても、ロングショットの構図という点に限って云えば、たとえば吉田良子受難』のほうが見るべきところを多く持っている(もちろん、一般の商業映画とは大きく異なる経緯で制作された『Seventh Code』のカメラは芦沢ではありませんが)。

舞台およびロケ地がロシアであることを積極的に示しているのは、看板等に記されたキリル文字程度だ。とりわけ、ひとたび往来を離れて人気のない場所に赴いてしまえば、そこをいつもの「黒沢的東京近郊」の風景と分別することはほとんど不可能に近い。「これではウラジヴォストーク・ロケの甲斐が乏しいではないか。もっとランドマーク的風景を撮り収めるなど観光映画的配慮を示せ」と云いたいのでは当然ない。どこで撮っても「黒沢的東京近郊」の風景になってしまう、それこそ「署名」を越えた作家の「筆跡」だ(署名は、ともあれ自覚的/自発的に為されるものだろうから)。

山本浩司アイシーは観念的な人生観とでも云うべきものを滲ませた素っ頓狂な台詞を不器用に操る。これも最近はやや鳴りを潜めていた黒沢節ダイアローグで、思わず笑いがこぼれてしまう。「一度食事をしただけの男を追ってロシアに渡航する」「素寒貧にもかかわらず堂々と大量の飯を誂え、しかも無銭飲食を容認されてもそれを断る」など前田の異常性格もいかにも黒沢らしい造型だ。活劇は活劇として演出された上で、映画のサスペンスはこの何をしでかすか分からない異常性格によって駆動する。しかしながら、彼女の行動動機はフリーランスの工作員(?)として受注した依頼にあったことが後に明らかにされる。こればかりは順当すぎて少々拍子抜けしてしまうサスペンスの解消だ。

(評価:★4)

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