[コメント] 地獄でなぜ悪い(2013/日)
文字通り血の雨を降らせ、血の海を出現させる友近の過剰さに感嘆し、「言葉」の具現化にかける園子温の執着と遊び心に喝采を贈る。圧倒的な過剰さで善も悪も蹴散らし秩序を無に帰す平田(長谷川博己)に、真性の紊乱者としての園の本性が覗く快作。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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園子温には生粋の秩序破壊願望があるのだろう。その実行者の出現が物語を揺さぶり「負のベクトル」とでも言うべき園の映画独特の逆カタルシスを生む。コミュニケーション不全の若者(『愛のむきだし』)、零細店の経営者(『冷たい熱帯魚』)、抑圧された専業主婦(『恋の罪』)しかり、その餌食はいつも市井の小市民だった。
しかし、本作の平田(長谷川博己)が破壊するのは、ファンタジーとして戯画化された悪党どもだ。そして、過剰な純粋さゆえに30歳を目前にしても定職を持てない(夢を追うと生活が破綻する)、今の日本社会そのものだ。「人生で唯一の1本」を手にした平田の高笑いが不気味さとともに、ある種の爽快感を漂わせるのは、カタルシスの「負のベクトル」がいつのも園作品より、ほんの少しだけ我々の心情に寄り添っているからだろう。
余談だが『希望の国』があまり面白くなかった理由が分かった気がする。あの映画のなかの秩序破壊者は、事故を起こした原発そのものだった。社会の紊乱者たる園子温は、闘うまえから彼の武器を封印されていたのだ。
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