[コメント] アジアの純真(2009/日)
言うまでもなく思考の停止は罪だが、自己満足のための攻撃や和解ほど空疎なものもない。いくら考えても分らないものは分らないし、どんなにあがいても駄目なものは駄目なのだという現状認識。現実を直視しない限り覚醒は始まらないという真摯な吐露が胸を打つ。
標的を求めながら彷徨う少女(韓英恵)と少年(笠井しげ)の、現実離れした逃避行の描き方に作者片嶋一貴の冷徹な覚悟を感じる。その切なく真摯な二人の道程は、まるで人と人とのつながりが消滅してしまったように、いっさい第三者が登場しない。未熟なテロリストは現実から遊離し、思考の霧のなかを彷徨うのだ。
雪中の船出以降、映画は一変し、少年は狂気の眼差しで世界にコミットし、少女は少年を赦し自らも赦されようと至福の笑みを浮かべるも、鉄槌は黄泉の彼方から現実世界に向けて振り下ろされ狂騒の終焉をむかえる。この確信犯的に引き起こされる混乱の強行こそが、主義や論理や制度を超越した未熟なテロリストの真摯さ、すなわち作者の覚悟の証しなのだ。
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