[コメント] 愛の勝利を ムッソリーニを愛した女(2009/伊=仏)
時代背景を描写する方便もあり、『夜よ、こんにちは』以上に、膨大な古いモノクロ映像が挿入される。映画を見るシーンも多く、何回あっただろう、全編で5、6回はあったと思う。
戦争の記録映画に加え、キリストの磔刑の場面が印象的な劇映画(これがドライエルばりの見事な映像!)やチャップリンの『キッド』も使われる。また、映画館の描写では、上映中に、観客同士が口喧嘩から乱闘に発展したり(伴奏のピアニストの様子が西部劇のサルーンのよう)、兵士がガスマスクをしたまゝ見ていたり(コロナ禍の映画館を予見している...ワケないか)、あるいは、手回し映写機や天井スクリーンといった風俗が垣間見えたりする。そして中盤以降のニュースリールでは、本物のムッソリーニの記録映画が使用されており、本作のムッソリーニ役(フィリッポ・ティーミ)を使って再現するという選択を取らずに、あえて、相貌の相違−ひいては偽りのメディアとしての映画−を観客に突きつける。
ベロッキオの演出は、序盤のローキーのラブシーンも良いが、イーダ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)が病院へ収容される中盤以降に本領を発揮する。例えば数人の女のカメラ目線カットが意味不明に挿入された後、やゝあって、これらは病院の患者達のフラッシュ・フォワードだったと分かる繋ぎだとか、イーダが息子宛に書いた手紙を持って、病院の大きな柵に上る場面だとか。そして、本作の白眉は、この病院の柵がもう一度使われる、クリスマスの夜のシーンだろう。なんて美しい、そして悲しい雪のカットだろう。クリスマスの映画として忘れないようにしよう。
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