全米公開前からの評判の良さや絶賛の嵐の報を聞いているとどうしてもハードルが上がるのだが、決して強く心を揺さぶる作品だとか、今世紀最大の傑作とか、そういった類の映画ではないと思う。

同じように評判の高さを前提として観た近作にクリストファー・ノーランの『ダークナイト』があるのだが、そういった神がかり的なスゴさを感じさせてくれたわけではない。クリストファー・ノーランの場合は『メメント』以上のことをやらないといけない中で、それをやってのけたのだ。

では、デビッド・フィンチャーはこの『ソーシャル・ネットワーク』で、トンでもないインパクトを放った『ファイト・クラブ』以上のことをやったのか、というとそんなことはないだろう。あんな狂気的な映画を撮ってしまった監督だと思うと、随分お利口さんな映画作りやがって！とも言いたくなる。

だが、じわじわと良いところが浮き出てくる映画にも思えるのだ。実際、エンドクレジットを観ているときと、こうして感想を書いている今だと、今の方が明らかに映画に対する印象が良い。

あまりの軽快なリズム感に人間描写が浅いのではないかという疑問を抱いてもいたが、細部を思い返すと意味ありげにも思えてきたり。改めて観たいなという気にさせられるし、そういう映画こそがのちのち「良かった映画」として記憶にしっかりインプットされていたりするのだ。そして、この映画の場合、Facebookが存在するかぎり、ふと頭に浮かんできてしまいそうなのだ。

物語の魅力という意味では、原作である「facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男」を読んでいたこともあり、特に新鮮さを感じたわけではない。事実としては知っていることが描かれ続けるのだから。

しかし、デビット・フィンチャー作品だなと思ったのはやはり映像なのだ。ここまでテンポ良く進めていける映画もなかなかないし、それだけ編集が見事。アメリカの学生の生活をそのまま見せてくれるような世界観作りも魅力的だし、そして何より、クラブやパーティで話しているときの周りのガヤガヤ感を、サウンドを落とすといった気遣いはせずにそのまま映像に落とし込んでしまう意気込みが素晴らしいです。冒頭のバーでのマーク・ザッカーバーグとエリカの会話もそうだし、マーク・ザッカーバーグとショーン・パーカーがビジネス談義をするクラブのシーンなんかは特に光っていたと思う。

また、より事実に基づいているであろう原作と比較して見ると、脚色したところがわずかではあるがしっかり映画の中核を担っているのが興味深い。ショーン・パーカーのキャラクターを示すために、女性に好きなドリンクを聞いたあとに「それを4つで」と注文するシーン。エドゥアルド・サヴェリンがFacebookにマーク・ザッカーバーグほど本気で打ち込んでないことを示すために、交際ステータスの変更の仕方を知らないと彼女に真面目に伝えるシーン（Facebook見てれば誰だってわかるようなことなんだから…）。こういった細かい部分が、確実に映画らしい部分に直結していることには脚本の巧さを感じる。

その極みが、冒頭とラストを締めるエリカとのエピソード。これは完全な映画上の創作だと思うのだが、マーク・ザッカーバーグを描く上でとても効果的だったと思う。マーク・ザッカーバーグだけを描くわけではない映画なので、彼の孤独を浮き彫りにするのであればもっと他のアプローチもあったと思うが、冒頭と中間とラストという中核でうまく挟み込んで来たことで、うまい味つけがされたのではないか。

ちなみに、Facebookの範囲をハーバード以外にも拡大する際に、ボストン大にも広げるという話が出るが、実施はイェールやコロンビアなどアイビー・リーグの大学に限られていたはずなので、ここにボストン大も入れてくることでエリカへの固執を感じさせる。そして、ラストシーンではついつい検索して友達申請をしてしまうわけだ。さらりとしか描いてないけど、深みを感じさせてくれる。

思えば、『ファイト・クラブ』も細部の良さや映像で見せきっていた映画だったっけ。ちょっと優等生になった感じはするが、共通点も持っているのかもしれない。大傑作ではないけれど、マーク・ザッカーバーグがクールなウェブサイトを求めたように、この映画もクールな映画に仕上がっている。