[コメント] クレイジー・ハート(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
カントリーソングを歌い歩く男のロード・ムービーというと、どうしてもイーストウッドの『センチメンタル・アドベンチャー』を思い出さずにはいられないが、さすがにあの大傑作には及ばずとも、これもまた長く付き合っていきたい秀作である。
幕開けがいい。アメリカ西部の大自然をとらえたロングショット。そこにジェフ・ブリッジズ本人が歌う渋いカントリーソングが重なり、彼の運転する愛車がゆっくりと進んでいく。その風景と、歌と、車が一体となった風情、リズム感が堪らない。この時点ですでにこの映画に対する一定の評価が定まりそうな予感が自分にはあった。
役者もいい。本作で念願のオスカーを受賞したブリッジズはもちろんのこと、決して美人ではないが、往時のダイアン・キートンらをも想起させるキュートな魅力溢れるマギー・ギレンホールも、主人公が改心してまでその気を引こうとする説得力に満ちていた。また主人公の無二の親友役ロバート・デュヴァルもあれだけの出演時間にも関わらずさすがの存在感を見せつけて圧巻だったし、少ない出演時間にも関わらず圧巻といえばスターとなった今も主人公をリスペクトし続ける弟子役のコリン・ファレルも、その意外なまでの美声とともに忘れられない足跡を刻んだ。
子役の少年も好演していたと思う。ただ、物語上の起承転結のポイントには子役を深く関わらせつつも、主人公と子役の物語を膨らませず、あくまでもその母と主人公との物語に徹した構成はよかったと思う。だからこそ改心、矯正後のあのほろ苦くも主人公の未来を陽光という形で示唆したラストが生きた。
監督のスコット・クーパーは本作が初監督作だというが、決して奇をてらわず、室内、室外という舞台の特性を踏まえながら、役者の魅力を最大限生かそうとする丁寧な演出力には明るい未来を感じるところがあった。こういう何でもない話をしっかりと撮れる若い人が出てきたことはとても喜ばしいことだ。そんな彼の今後に対する期待度も込めて、少々甘くはあるが本作には最大限の評価を記しておきたいと思う。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。