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[コメント] アバター(2009/米)

確かな“戦闘力”設定がバトルの面白さを生む。アクション映画として、この脚本は神業的と思う。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 架空の生物と人間が戦うアクション映画の場合、脚本家には物語を語るだけでなく、その架空の生物がどの程度手強い相手なのかを明確に設定することが求められる。人間に比べて、彼らはどれほど強いのか。それは、登場人物がどういった困難を乗り越えていくことになるのかという「物語の目的」そのものにつながる、とても重要な作業だ。

 この映画の最初のバトルシーンとなるのは、主人公のアバターがラボで目を覚ますシーンだ。抑制の効かなくなった主人公を取り押さえようとする人間たちは容易く振り切られ、手も足も出せなくなる。ここで早くも、人間とアバター(=ナヴィ)の身体能力の格差が明示されることになる。素手同士では人間は絶対に青猿に勝てないし、青猿は少し暴れても計器類や強化プラスチック(?)を破壊するほどの腕力は持っていない。たった1分か2分の場面のなかで、以降の「人間vs青猿」におけるバトルの前提条件を、実に手際よく定めてしまう。しかもそれは、下半身不随の主人公がアバターによって肉体の自由を手に入れた高揚感を表現すると同時に達成されている。ドラマを転がしながら、観客の頭のなかには、半ば無意識に「青猿こわい」という設定が刷り込まれている。

 一度こうした基本設定を明示しておくと、後に彼らの戦闘能力が変化(成長)していっても観客は理解を失うことがないので何も考えずにアクションを楽しむことができるし、理屈以前に、感触として青猿の実存を認めることができる。

 そのラボのシーンがもっとも特長的なのだけれども、その後もキャメロンは“戦闘力”設定の明示に決して手を抜かない。カラフルなサイや黒いツヤツヤのヤツとの比較、オオカミと初心者アバターとナヴィのハンターとの比較……それらが、常に“他のこと(ドラマの本線)”を語りながら次々に明らかになっていく。そして、最終決戦ですべてが伏線として機能する。こういう脚本は、なかなか生半可では書けないな、と感じるわけです。ナヴィのサイズ感も絶妙で、人間には圧勝するけどローダーにはまったく歯が立たないというバランスのおかげで、大佐がキレたときの緊迫感が増幅している。怪鳥がただデカイだけでなく、足で「掴んで投げる」という設定があるから、ヘリと怪鳥群との空中戦が成立する。

 それらはすべて白紙のキャンバスの上に描かれた絵空事であり、嘘っぱちだ。「侵略とは」とか「原住民の暮らしを云々」とかいう作家の主張にはまるで関係のない、ただ「面白さ」を求めるためだけに割かれた労力だ。

 『アバター』は莫大な動員数が必要な巨大予算映画であり、「3D映像を見せる」という命題を背負った作品だ。その前提において、誰でも楽しめるための仕掛けを綿密に仕込んできたキャメロンという監督は、やっぱりこれはちょっとすごい仕事人だぞ、と思うわけですよ。ドラマとしてはみなさんおっしゃるように宮崎に遠く及ばないし、バトル演出としてもシム・ヒョンレに負けてるような気がするけど、このバランス感覚と間口の広さは、世界中探しても真似できる人はなかなかいないんじゃないかと思うんです。この規模でお金を作れる人が、まずそんなにいないし。

 デジタル3Dの嚆矢として、キャメロンが立ててしまったハードルは、あまりに高いと思います。後塵を拝した映像作家たちの前には、ナヴィが厳然と立ちはだかっている。そして、これを越えていくのはアレですよ、実写版『機動戦士ガンダム』しかないと思うんですよ。神木きゅんもそろそろアムロ・レイをやりたくなってると思うんですよ。3Dでメイド for you〜とか言ってる場合じゃないですよ。誰か、早くガンダムを……。

 あ、樋口さんはすいません、絵コンテ担当でお願いします! あわわ紀里谷さんは美術で!

(評価:★4)

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