[コメント] サマーウォーズ(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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自分が観たかったもの、それは。
●栄の膨大な人脈を活かした、国家を賭けた壮大なネット戦争。
●数学オリンピック日本代表になり損ねた健二の挑戦。
●侘助と彼の生んだAIとの一騎打ち。
前フリは十分できているのだから以上をメインに据えるだけで見ごたえのあるクライマックスは作れたはず。しかし、この監督は(たぶん)わざとこれらを外した。 それでも悔しいことに「侘助と栄の確執と和解」や「クライマックスでの連帯」、「戦い前の大家族の食事」「縁側での夏希と健二」には熱いものがこみあげてしまったのだ。 何故そうなったのか。それは「設定」という記号だけだったのだと思う。こういう見せ方をすれば観客は絶対ぐっと来る。そしてそれをこの監督は知っている。でも、それに関してさえもさらっと流している。
そもそもこの作品の「主人公」はいったい誰だったのか。 見終わった印象では健二でも栄でも侘助でも、ましてや夏希でもない。 そのせいなのか、主軸がブレまくっており、誰に肩入れすべきなのかわからなかった。 ラストの花札での対戦相手は正直「え〜、お前かよ〜」と思ってしまったし、対決そのものは、見せ方というよりもスピードと効果音で我々を煽った。 でも、肝となるはずの登場人物たちの誰もが、この戦いの「起死回生の一撃」を撃てていない印象なのだ。 あまりに戦い方が予想外で勢いでゴリ押しされた印象だが、メインの相手が思いっきり前フリされた栄でも健二でも侘助でもなかったのは、正直納得しづらい。
設定と一番縁のない風景である長野の旧家の対比は美しい。 長閑な田園風景と大規模最先端のネットコミューン戦争、 全世界を巻き込む未曾有の大事件の命運が、長野の片田舎の大家族に委ねられているという設定だけでもワクワクする。 そう。彼は作品作りの「緩急」を知っている、つくづく巧い監督なのだ。しかし、話の運びが下手ではないだけに、観客の期待はその分、終盤に向けてOZと同様、とてつもなく大きくなった。
その他の日本映画のクオリティとの比較をすると文句なく★5。 でも、悔しい。この点を献上するのはすごく悔しい。
以下、ツッコミどころ。
IDのアバター化は可能。というか、個人情報の塊の一部がアバターデータという意味ですが。ただ、対戦できるアバターとなると膨大なデータ量となるので、個人情報そのものが何GBくらいに膨らむはず。そんなデータを管理している会社って・・・。
他人のアカウントを自分に取り込む方法は可能か。前提が「アカウント自体が権限を保有。セキュリティ厳しい」ということなので、「成りすまし」ならわかるけど、取り込んだ分だけ汎用性を持つっていうのは難しいかと。しかも国家権限に繋がるアカウントが独自サーバでないっていうのはねえ。そもそも、「取り込む」をそのままで受け取るとデータそのものが他人の情報を持つ分だけ可変(というか増大)になるので、動かすだけでも大変になっちまう。では、取り込むのではなく、一般ユーザアカウントより上位の権限を持つということならどうか。この時点ですべてのアカウントの上(それぞれの優位性はあるだろうけど)になるので「アカウントを取り込む」という概念ではなく、全アカウントの奪取ということになる。つまり「アカウントの選り好み」は不可能。わざわざ不要なアカウントを捨てる作業が発生するので、それではこの物語の一番の見せ所が成り立たない。
画的に判りやすいネット世界を描いていたけど、結局「操作不能」のようなコントロールがされており、ゴミが漂っている(=根幹データの侵食もしくはプログラムの書き換え)かのような絵を見せられた時点で、一部のアバター(=アカウント)が正常に動かせるのはおかしいですなあ。
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