[コメント] ハリー・ポッターと謎のプリンス(2009/英=米)
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本作は実質的にそんなに観客受けが良い作品ではない。「ハリー・ポッター」の名前を冠してなければ、ここまで売れるような内容には思えないのも事実。
これは原作に問題がある。あくまで原作について言えば、内容は巻が進むに従ってどんどん暗さを増していき、6巻に当たる本作の原作は全般にわたって陰鬱な雰囲気で展開しているし、主人公ハリーの周囲にも犠牲者が増えていっている。これはファンタジックな明るさを持っていた1作目とは随分雰囲気が異なり、単純な魔法を使った学園青春ものからはずいぶん離れた作りになってしまっている。
そんなものを原作にしているため、映画版の本作は色々工夫の後が見える。原作の物語そのものを忠実に追っていくと陰鬱な作品になりかねないため、設定上重要な物語を後退させ、ロンとハーマイオニーの恋愛話にかなりのウェイトを持ってきていることに現れている。そのおこぼれにあずかってハリーの方にもキスシーンとかが用意されているが、物語の多くを占めるのがロンの方になってしまった。そう言えば3作目もこれに近い作り方をしていたが、今回はメインとなる物語が暗い分、それが極端に現れた形になった。
そのこと自体は問題ない。これまでが比較的明るい作り方をしていたのだから、それを急に方向転換させるよりは、明るい物語を抜き出した方が客受けも良いだろうし、話に花も持たせられる。何よりこれを青春物語にすることで、シリーズ開始から観ていた人に、あの仲良し三人組がいつの間にこんなに成長したのか。と、感じさせてくれる利点もある。一面では物語を明るくしたのは成功でもあった。
ただ、それがメインの物語まで侵食してしまったのが本作の問題点。本作のメインストーリーは“半純潔のプリンス”が何者か。ダンブルドアが持っているアイテム。新登場のスラグホーンがかつてヴォルデモートに何を教えたのか。そしてドラコの謎の行動。という四つの謎の解明に物語は収斂していくのだが、その部分を深化させることが出来なかった。特に本作のメインタイトルであり、原作にあった“半純潔のプリンス”については、最後の最後にスネイプのたった一言で終わらせてしまったが、これはもったいない話だ。確かに原作が長く、詰め込まねばならない物語が多すぎると言っても、端折り方が大胆すぎて、全体的なストーリーが弱くなりすぎてしまった。
原作に忠実にすれば客が逃げ、かけ離れたものを作れば原作ファンからそっぽを向かれる。そのギリギリを探らねばならない脚本家の努力は買いたいが、結果として中途半端な物語になってしまったため、その部分はかなり不満が残る。
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