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[コメント] 20世紀少年 第2章 最後の希望(2008/日)

舞台が未来にうつった分、現実(大人の世界)にフィクション(子供の空想)が浸食していく「いやな現実感」の欠如は「第1章」ほど気にならなくなり、荒唐無稽が加速して、良く出来たフィクションをふつうに楽しめる感じになった。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作「20世紀少年」が、20世紀末のカタストロフのみを描くのではなく、1960年の時代の話を描き込むのは、一旦、絵空事のない現実の世界のあることを見せた上で、その世界の上に絵空事がたちのぼってくるという順序を強調し、実感を伴うまがまがしさを味わわさせることにあると思う。切り取られた絵空事ではなく、われわれの生きている現実の延長にある絵空事を見せることで、手垢のついたフィクションに新鮮な味わいを見出すことに成功したのだ。

その方法論が重要な意味を持つのは、現在を舞台とする、映画では「第1章」にあたる部分であったので、前作では現実感の欠如が気になったのだが、今作は舞台が未来となることでそこが気にならない。第2章以降の「20世紀少年」は、リアル感から解放されてしまう。そういうことも、こうやって「第1章」「第2章」と映画になったことで、初めてわかって面白かった。

原作の面白さのピークが、結局「血の大晦日」事件までで、それ以降はそれほど盛り上がらないのは、ネタの良し悪しよりも、構造上の理由にあったのだなあ、と(むしろその後あれだけ話を引っ張っていったのはネタの質が高かったからかも)。

また、こんなふうにも思った。

本作に出てくる「ともだちの家博物館」の「ともだちの部屋」が、持ち主の幼児性を示唆していたり、ドリームナビゲーターのスタッフたちの、これまた幼児向けアトラクションの係のお兄さん・お姉さん的な振る舞い、バーチャルステージや教科書での洗脳、そもそも新興宗教の自作自演が現実を支配してしまうという世界観に、かつて原作連載の頃味わえたのと同じ恐ろしさが、今ほとんど感じられないのではないだろうか? と。

連載当時(1999〜2006。95年は地下鉄サリン事件があった年)、フィクションや嘘が現実の世界という壁を揺さぶったことで、その壁に体をささえていたわれわれは、その壁のもろいことを感じて「不安」になったのだが、今という時代、現実の世界がもろいことはもはや「不安」ではない。それが不安材料になるほど、今の現実の世界は磐石ではないといえるのではないだろうか。

更に言えば、「昔こういう新興宗教の団体が、妄想を本気にして本当に世界を征服しようとして毒を撒いた事件があってね、この映画はそれが元になっているんだよ」と、若い世代に説明しても、バーチャル世界征服を本気で実行しようとする連中が、現実社会に「登場した衝撃」、宮崎勤の部屋を見てみなが一斉に「思い当たった衝撃」は、その当事者でしかわからないのかも知れない。原作が描こうとした「現実の違和感」の成因を体験している層と、そうでない層。ポスト仮想現実社会において、そうでない層には、はなからこの物語は「ただの良くできた絵空事」でしかないのかも知れない。2010年という、今の時代、このコミックを映画化するということは、どういう意味があったのだろう?などとも思ってしまった。

ふつうに面白い絵空事として見ると、先述したようにとにかくストーリーの面白さに惹かれるし、原作のビジュアルにそっくりというキャスティングのはまり具合は、それ自体面白くてしょうがなかった。小泉響子役の木南晴夏なんてよくもあそこまで似ているもんかと感心しきりだったし、ホクロの警官佐藤二朗、神父の六平直政、ニューハーフの前田健、春波夫の古田新太、高須光代の小池栄子なんて、顔が似てなくても違和感のない配役なのに、必要以上になんであそこまで似ているのか? 浦沢直樹がマンガを描く時に「この人をモデルにしました」っていうのが、実はそのまま配役だったりするっていう例がたくさんあるんじゃないか?(<これカミングアウトして欲しいな。) 

残念だったのは、本作の最大の興味であるはずの、ともだちの正体の謎解きの扱い。「サダキヨ」は思わずスケキヨを連想させる語感の怪しさもあって、もっと「こいつが[ともだち]なんではないだろうか?」と引っ張って欲しいのに、登場してすぐ正体を明かしてしまうのはがっかりだ。せっかくユースケというこれ以上ない曲者をキャスティングしたのにこれは勿体なかったなあ。(このキャスティングもよく似ているよ。どういうこと?)

平愛梨ちゃんは、そういう意味じゃ外見はあまり似てないほうかも知れないし、本人の得意とするタイプの役じゃないんだろうけど、生きていた。格闘シーンは一瞬ものすごくいい場面があったし、走る場面とつったってる姿勢は、特に「愛梨さん大成功です!」です。

(評価:★3)

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