結果から見れば、主人公は人生の全てを絵に捧げたわけだけど、有名な画家になることはできなかった。それは人生棒に振ったといってよいのかもしれない。しかし、その「過程」を見れば、一瞬一瞬を主人公は「芸術家」として「生きていた」のかもしれないし、絵に取り組んでいるその時間は、おそろしく充実したものであったのかもしれない。過程が充実していれば、結果的に夢破れても、それほど後悔はしないんではないだろうか、というようにも思う。主人公の最後はおそろしく惨めであるが（奥さんが残ってくれるのが唯一の救いだが）、生き様を結果で見るか、過程で見るか、それで見方が全然違ってくように思える。

ただ、主人公は、子供のころは絵を描きたいから描いている、という感じだったが、大人になると、画商に認められる絵を描こうとか、絵を描く動機が変化しているように思えた。多分、本当の芸術というのは、求められるものを描くのではなく、描いたものが求められる、というものだと思うので、画商の意見を伺う主人公の姿は見ていてつらいものがあった。