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[コメント] 我が家の楽園(1938/米)

なんとこの80余年前の作品には、反グローバリズムのためのピースが並んでいる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ピースとはライオネル・バリモアのイズム批判と税金不払い運動(坂口安吾が想起される)であり、ジェームス・スチュアートが研究する新エネルギーであり、ジーン・アーサーの特権階級への「NUTSクソッタレ」であり、恐慌の経験であり、更には、エドワード・アーノルドによる大資本の転身と援助であるだろう。

スラップスティックの風体から、いったいこの連中はどうやって食べているのだろうという疑問がわく訳で、その答えは、食うに困らないのが(マルクス兄弟はじめ)スラップスティックの連中だ、というものでしかない。だから「自由に生きるには勇気がいる」と云われても、いや全くなるほどだ! と行動に移す観客などいない(本作が語る自由が放埓ではなく、友情の優先であるにしても)。ドタバタ喜劇には器が重過ぎるのだが、かといってリアリズムで語れば説得力が生まれたかというとそうは思われず、はなはだ空疎な作品になったに違いない。本作の理想は、ドタバタでしか語れなかった類のものであると思う。

バリモアが卒業式の式辞を好むのは示唆的だ。あすこでは卒業後に大抵が誰も守ろうとしない、守りたくても守れない理想・理念が語られる。バリモアは勇気をもらったに違いない。ピースの理想的な組み合わせなど実践できたものは現代でもいないのだ。ただ本作では、理想・理念が意識されていることだけは間違いがない。具体化は後世に託されている。研究を続けるため会社を継がないと父に告げる息子は、買収屋の「カービー家は永遠」を否定する共生の思想が研究に含まれているのに意識的だと解したい。

なお後年、『ライムライト』では「人生で大切なのは勇気と想像力と少しのお金」と語られる。「自由に生きるには勇気がいる」との差異を考えると面白い。バリモアはチャップリンに同意しただろうか。

本作、赤刈りの狂乱を戦前にすでにパロディにしてあるのには目を瞠らされ、ハリウッドの懐の広さを感じる。深夜裁判で小銭をかき集める女優と裁判長が魅力的で、主役を喰っている。自らも小銭を差し出す裁判長が素敵だ。この件を『素晴らしき哉、人生!』のラストで、キャプラはパロディにしている(後者ではジェームス・スチュアートを助けるために集められた募金に、視察官はしぶしぶといった体でポケットマネーを上乗せするのだった)。ドナルド・ミーク作のウサギの玩具が実に可愛らしく、指一本でキスをせがむジーン・アーサーが何とも魅力的。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)jollyjoker ゑぎ[*] ジェリー[*]

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