ミュージカルの脚本を映画の台本にするに当たって、舞台芸術であるから許されるのであろう部分についてのフォローが薄すぎる。現代の映画芸術として必要不可欠な細やかなキャラクター造形、心理描写があまりにも雑。

ファントムは何故「オペラ座の怪人」としてしか生きられないのか。醜い容姿をもって生まれ子供のころ見世物にされ虐待されて育ったというだけで、あんなにグレるか？ 芸術というものが持つ本質的な孤独と彼の孤独が混ざりきっていないので、ただクリスティーヌに色こいて駄々こねてるだけの男に見える。よって、クリスティーヌがどうして彼から離れられないのかも、説得力がない。

醜い容姿のメイクを中途半端に見やすくしたのも完全に失敗。醜いものの特徴としていろいろな「記号」を付ける事は今日では社会的に許されないのかも知れないが、それによってまた説得力がない。

映像としては、オープニングでシャンデリアがグァー！っと上がって、それまで白黒だった画面が一気に極彩色に変わる場面は圧巻。「はぁ、映画ってすごいわ〜！」と溜め息をつかずにいられない。

んが、幕が進ごとに退屈に。前半の劇中劇と地の場面が交互する華やかさは充分に魅せてくれるが、後半はそれも少なくなるので退屈。地下室を行ったり来たりするラスト付近は眠くなる。

音楽は、映画でありながらミュージカルの素晴らしさも味わえる面白さはあるも、後半はだらだら歌っているだけで映画としてのスピード感もなければミュージカルとしてのレベルもあるのかは疑問符がつく場面が延々。映画なんだから、最低限のスピード感は必要だろ。音楽が素晴らしくても観せ方がダメならＣＤで充分じゃないか。

劇場中継なら劇場中継として撮れば良いし、映画なら映画らしく作れば良いのに、どっち付かず。とにかく後半ひどい。