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[コメント] オペラ座の怪人(2004/米=英)

怪人の悲哀よ、どこへゆく。
ヒエロ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







元々の話が薄っぺらな分、ファントムの悲哀を魂で朗々と歌い上げる事こそ、この脚本の持つ本質なわけだが、ところが、ミュージカルと銘打っている割には、歌い手が限られていて、ファントムの心を多次元で捉える事が、全然できていない。 テーマ曲に至っては「火曜サスペンス劇場か?」と思うほどだ(オペラでもロックでもなく、歌謡曲か?)。 唯一ドン・ファンのシーンでの、長年にわたって虐げられた者だけの持つ心底から沸き上がる叫びが、音楽と歌詞と演技を一つにしたミュージカルの醍醐味を出していた。

もう一つ。字幕だけに頼っていると話の流れが唐突で、ファントムがタダの引きこもりストーカーにしか見えん。 自らの醜さを、身の傷みを持って知るファントムだからこそ、真実の美を追い求める芸術家たらんことを望み、その具現化対象のクリスティーヌは、自らが作り上げた最高の芸術作品(しかも、まだ未完成であり鍛錬は続くと劇中言っている)なのだろう。だからこそ、タダの幼なじみにくれてやるほど世の中は甘くねーよつうのは当たりなわけで、ところが字幕だけを見ると、ファントムが「君だけを追い求めている」と感じてしまう。

ファントムが夢見るのは、beauty(冠詞がないので美全体)であり、a beauty(この場合クリスティーヌ)じゃない。ところが字幕は「だがそいつは秘かに美女を夢に見ている」と訳されている。しかも、直前に地獄で焼かれながらも天国に憧れると言っている(だから見た目は獣でも、美を夢見る台詞=心は醜くないと訴えるシーンが生きる・・・クリスティーヌ個人を夢見る訳じゃない)のに、字幕だけ見ると唐突にクリスティーヌを名指ししている印象を与えている。 これじゃあ、タダのストーカー(台詞は / Who seems a beast but secretly dreams of beauty /)。

誤解を招きそうなのは、ファントムだけじゃない。ラスト近くでラウルが縛られて身動きできずクリスティーヌを掠われそうになるシーンで、ラウル、クリスティーヌ、ファントムの三重唱となる。訳だけ見るとラウルがファントムに慈悲を乞うているだけだが、彼は、「僕のために君の人生を犠牲にするな(Don't throw your life away for my sake!)」と歌っている。 ところがこれが字幕に表れない。これではラウルもタダの金持ち坊ちゃん。

ファントムが余りに可哀相すぎて、さすがの戸田奈津子さんもクリスティーヌにかぶったか?(笑

−−− 後日談(2006.07.21) −−−

DVDでは字幕の修正がされたようです。 上記の訳は、直っているようです(本人未確認)。

(評価:★3)

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