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[コメント] 白いカラス(2003/米)

何がやりたいのやら・・・
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ファーニア(ニコール・キッドマン)よ、私の悲劇はこんなにも!!(でも言うまい、言っちゃったけど)by コールマン、って、なんだ?なんだ? そうですか、色々ありますね。頑張ってください。てなもんじゃないですか?こんな描写では・・・。 好みはそれぞれだと思うけど、少なくとも私にとってこれは文学じゃ無い。 私にとっての(文学の)悲劇は、人の美なるものの2面性(善悪)の描写が必要条件。 それを最初から自分のみの悲劇を強調し、しかも文学を論じるなんて、3流サスペンス小説並ではないですか?

それにしても、久々に(て言うか、はじめて)魅力のないニコール・キッドマンを観たなー。文学的なキッドマンは『めぐりあう時間たち』や『ドッグヴィル』で十分に堪能しているのだが、彼女の力の抜きっぷりには驚かされた。彼女は悲劇を口にするまでもなく、それを演じられる女優なのに、よくこんな役を引き受けたものだ。

そもそも白い肌に生まれた主人公(アンソニー・ホプキンス)は何者なんだ? 結論、彼は何者でもない。 白人女性ばかりに惚れ、家族と黒人社会を裏切り、白人に成りすまし、ボクシングでは黒人をなぎ倒し、どうやら大学の権威になったものの失敗してしまった、落ちぶれ者らしい。

確かにモラルのうるさい時代にレイシスト呼ばわりされた挙句、大学を追われたのは不運だったかもしれないが、悲劇ではない。 そこに来て黒人の血が騒ぐってか? いやいや彼が自らを黒人とカミングアウトしないのは当然の判断だっただろう。「黒人の私に向かって、差別発言とは何事だ!」などと啖呵をきった日には、もう喜劇。黒人社会を棄て、世間を欺いた彼に賞賛の声が出るはずもなかろう。そこで、山籠り中の作家ザッカーマンの執筆に名誉回復を託す始末。ザッカーマンとの接し方も「どうだ面白いネタだろう!」と、一貫して自己中心。 正直これを悲劇扱いする本作が信じられないよ。 悲劇は彼でなく、彼の母親や周りの人物だろう。 

はっきり言って、(誤解を恐れずに言うと)この肌ネタはコメディでこそ生きる。『ふたりの男とひとりの女』はコメディの中の悲劇だから笑え、訴えるものがあるのだ。文学作品を装って、冒頭でセクハラ・スキャンダルを例に挙げるところからして安っぽい。白い肌のシリアス風味では話が持たないので、案の定、登場人物を増やして別の話で埋め合わせようとするお粗末さ。

ゲイリー・シニーズの作家ぶりだけは良かった。踊りを拒む仕草はゲーリーの新たな一面を発見できたし・・・。 それだけが救い。 彼の作品にコールマンの母親をはじめコールマンに棄てられた家族を登場させ、作品の冒頭で「これは“トリッキー”な人生を送ったコールマンの物語」と書き綴ったのは本作の本質を突いている。そこだけが作者の真実(と言うか弁明だろう)。 エド・ハリスは流石の演技だが、本作からは彼の存在が宙に浮いている。

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※ 追記 ※

 以上、酷評を書いてしまったものの、後々考えてみると、退任後のコールマンの歯切れがどこかしら悪く、時折妙にハイテンションだったのは、黒人から白人への一線を越えることで「レイシズムそのもの」と一線を画してきた彼が、数十年後、否応がなしにレイシズムに直面した因果に、八方塞りで為す術無しだったことの無念さを体現していたようでもある。彼はかつて「自己」を棄て、いま「自己」に追い立てられた、と言うことではないだろうか?

そこを、(自己を失った)コールマン自身が在らぬ自信で“我々鑑賞者に”変に主張するものだから意味不明な部分が多くなる。コールマンは死後、名誉を回復するが、現実社会での名誉回復より、ファーニアとの情事は死への逃避行だったとはっきり描写すべきだったと思う。

要するに、本作の主点は、所在不明でありながら自信に溺れたコールマンの主観などではなく、ザッカーマンの視点、ザッカーマンのストーリー誘導で描かれていれば、もう少しはバランスの取れた作品となったと思う。これがザッカーマンがラストで書きはじめた"The Human Stain"なのかも知れないが、それまでのメイキングを見せられてもね・・・。

(評価:★2)

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