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[コメント] 来る(2018/日)

「中島哲也はホームドラマ作家である」という暴論を語ってみる。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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おそらく『告白』『渇き。』『来る』は3部作なんだと思うのです。 母娘、父子の物語を経て、今回は家族のあり方を問う物語。 ついでに言うなら、『告白』での語り部が変わる『羅生門』話法と、『渇き。』の平成ハードボイルドだど!を組み合わせた映画だとも思うのです。

この映画は決してホラーではなく、むしろ娯楽作を撮っている趣きさえあります。 原作にはないという、ブギワン(<そりゃEW&Fだ)だかオビワン(<そりゃケノービだ)だかを迎え撃つ終盤の「祈祷大作戦」は、もはやハリウッド戦争映画的娯楽大作感すらある。

その一方で中島哲也は壮大な仕掛けも施します。

おそらく多くの観客が柴田理恵の怪演を意外に思ったことでしょう。 同様に、主要キャスト5人も、それぞれの役者に対して「世間が抱くイメージ」とは真逆のキャラ設定をしているのです。 これは、劇中ブッキー演じる「良きイクメン」と重なります。表の顔と裏の顔とでも言いましょうか。世間が抱くイメージなんぞアテにならんぞ、というわけです。 山田洋次が描く黒木華ちゃん、木村大作が好むジークンドー岡田、春のパン祭り松たか子。そうした世間が抱くイメージを壊しにかかる。中島哲也はそういう嫌らしいことをする。そしてどんな役をやっても小松菜奈は可愛い。 そして世間的にはアウトローであるフリーライターとキャバ嬢が「救い」となる物語なのです。

「鬼の演出」「和気あいあいが一切ない現場」と噂される中島哲也ですが、この人の映画は意外にもホームドラマ的であると思うのです。 長編デビュー作『夏時間の大人たち』は子供の目線からの家族物で始まり、続く『Beautiful Sunday』は夫婦物で始まります。6年の時を経て復活し中島哲也の名を一躍有名にした『下妻物語』は主人公2人の絆がメインで、『嫌われ松子の一生』は絆を求める女の放浪記。『パコと魔法の絵本』の疑似家族物を経た上で、前述した母子・父娘・家族の“悪意の三部作”につながるのです。

そこにはもちろん松竹大船調的な「世間が抱くホームドラマのイメージ」は存在せず、一部を除いて“善”に満ちた物語はほぼ皆無。むしろ悪を用いて絆を描く。まるで骨を切らせて肉を断つみたいな手法。

「誰だって大なり小なり人と人の絆は描くでしょ」と思うでしょ? でも例えば、黒沢清や塚本晋也は人の絆なんかに興味なさそうじゃない? 逆に言えば、中島哲也は一貫して人の絆をテーマにしているのです。 いやむしろ、悪意に満ちた現代社会の中で、「絆のあり方」を模索しているのかもしれません。

(18.12.16 吉祥寺オデヲンにて鑑賞)

(評価:★4)

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