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[コメント] バクマン。(2014/日)

平成の青少年に向けた正しい青春映画。なぜだか『の・ようなもの』や『けんかえれじい』を思い出した。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







サカナクションは主題歌だけだと思ってたんでちょっと驚いてるんですが、劇中の音楽が素敵なんです。 紙の上を走るGペンと鉛筆の音にリズム楽器が加わって、次第にメロディーが重なっていく。 「ああ、マンガってこういうことなんだな」って音楽で思ったんです。 線が集まって一つの絵になって、絵が重なってストーリーを紡いでいく。 実に当たり前のことなんだけど、音楽がきちんとそれを表現しているように思えたのです。

この映画に対して私が好意的なのは、このベタで中2病臭い(またはDT臭い)話を「上手な嘘」に見せるために、音楽や映像、配役といった全てがピタッとはまっていたからです。染谷将太の“天才感”なんてハンパない。皆川猿時のアシスタント感とか。なんだよアシスタント感って。

私がこの映画に期待したのは“高揚感”と小松菜奈の“わがまま感”。 後者はともかく、前者はまるでそれが全てのゴールであるかの如く、テンポよく「上手な嘘」を積み重ねていく様が気持ち良かったんですね。割と早い段階で気持ちが乗った。

これ、昭和だったら『の・ようなもの』だろうな、と思ったんです。 共通するのは若者の動機が“夢”と“女”であること。そして格好悪い点。 彼女のイラストで乳首を描けないなんて可愛いもんですよ。『けんかえれじい』も思い出したんだけど、あっちはナニでピアノ弾いちゃうからね。次元が違う。

ただ、時代が違うと描くべき若者像も違ってくる。

森田芳光の若かりし頃は、主人公自身はまだ何者にも成り切れない『の・ようなもの』でよかった。身近な先輩の成功を目にすることで、「いつか自分もそこにたどり着けるかもしれない」という希望の光を一筋見せるだけで、観客は納得した。そういう時代だった。 30数年前の若者は夢見る少女人形で許されたのです。ま、少女人形じゃないけどね。あ、これ、黒色すみれじゃなくて伊藤つかさね。ああ、なんだか話が横道に入ってややこしい。余計なこと書くんじゃなかった。

ところが今時の若者は、バブル崩壊後、「失われた十年だか二十年だか」の右肩下がりの社会しか見ていない。身近なところに成功譚がない。周囲の大人を見てもショボクレたウスラハゲのオッサンばかりで「いつか自分も成功する」という実感がわかない。そこへテロや震災という「世界の崩壊」の一端みたいなものを目の当たりにしてしまう。

そんな彼らには、彼らの世代の成功譚を正面から見せてあげなければいけない。努力とか友情とか、我々の世代では鼻白むようなことも、実際に経験していない、実感していない彼らには見せてあげなければいけない。この映画が「平成世代に向けた正しい青春映画」だと思う理由はこうしたことをきちんと描いたことにある。それも一方的な右肩上がりの成功譚に終わらず、挫折と喪失とその先の希望を残して。

そんなことを考えている私は「ジャンプ」より「サンデー」派だったけどねっ。今はサカナクションより相対性理論だしね。なんなら相対性理論の「小学館」歌うよBABY。今日から三週間、目覚めちゃダメだよ・・・

(15.10.17 吉祥寺オデヲンにて鑑賞)

(評価:★5)

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