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[コメント] 人生劇場 飛車角と吉良常(1968/日)

「義理が廃ればこの世は闇だ なまじとめるな夜の雨」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







タイトルバックで尺八のイントロに続いて鶴田浩二がしみじみと歌う「人生劇場」が本作早速のシビれるクライマックス。何たる名曲、鶴田の歌唱には圧倒的な味がある。しかしこの歌詞は何だろう。

義理と人情を秤にかけりゃ/義理が重たい男の世界

と嘆くのが「唐獅子牡丹」。この、義理に振り回される人情を題材とするのが正当任侠映画だろう。しかるに「人生劇場」は逆に義理の喪失を嘆いている。そもそもこの戦前の流行歌は早大第二の校歌とも云われるらしいが、まさか早大が任侠道を奨励するはずもなく、おそらく戦前らしい忠孝精神が謳われたのだろう。

映画は辰巳柳太郎がこの後常連になる任侠な面々の無茶を見守るという構造があり、藤純子の刹那的な逃避は左幸子に丸く収められたりもする。映画が云いたかったのはこの年長者の視点だろうし、これが義理の尊重なのだろう。このような父性母性の消えた世界で義理は抑圧的なものとなり、人情を謳う任侠映画に移行した、ということだろうか。

吉良の仁吉は男じゃないか 俺も生きたや仁吉のように 義理と人情のこの世界

本作の辰巳の吉良は美しいが、こういう人物が理想であった時代もあったのだと確認するばかりで「俺も生きたや」とは思わない(思っちゃったのが全共闘の面々なんだろう)。作劇は続・青春篇なのだろう、松方弘樹に係る件が中途半端なのが惜しく、松方か鶴田か、どちらかに片寄せして描いた方が良かったに違いない(高倉はいっそ不要だ)。予告編を観ると鶴田浩二高倉健が一緒にチャンバラしているカットなど見受けられ、相当に編集されているのだろう。確かにこれ、語り切るには3時間クラスが必要だろう。

撮影はやはり重厚で素晴らしく、全盛期の内田吐夢を彷彿とさせる。ちょっとしたキャメラの高低の違いでこんなにも味が出るのだ。『一乗寺』の再現である突然モノクロの殺陣はすでに手ブレでの寄りまで導入され抜群。前半の藤を奪われた二階屋に突入する鶴田の、手前に階段、奥に路地を見据えた玄関の縦構図(最後に玄関の硝子戸だけが血に染まる)なども冴えまくっており、鶴田に短刀しか持たせないことで殺陣の迫力はいや増しに増している。

(評価:★3)

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