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[コメント] 蜂の巣の子供たち(1948/日)

「この薩摩芋が旨いんじゃないよ、一生懸命働いたから旨いんだよ」という科白が清々しい、終戦直後の何もない青空のような映画。しかも、この科白は相対化されている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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戦争でやられたに違いない、片脚の小父貴は一生懸命働くことなど叶わず、子供らの跡をついていくも踏切で残酷に遮られる。復員者との対決(山中貞雄を想起させる省略の妙)の後、地面に転がる義足が痛々しい。清水は子供たちの成長を描く一方で、もはや成長しようのない大人を、親しみを込めるでもなく突き放すでもなく、幾分喜劇的だが、淡々と描写している。ここがとてもリアルだと思う。

小道を歩む群衆を捉えた清水印のドリーショットから、海を見つけた義坊が唐突に斜めに走り出す一瞬の躍動感が素晴らしい。豊が義坊を背負って山を登る長い長い件は、清水しか選ばないだろうフレームとテンポで、とても不思議な緊迫感がある。ヒロシマロケは占領軍にカットされたらしいが、あの瓦礫の山にそびえていた墓地は何処なのだろう、モノホンの迫力に絶句させられる。

墓前での晋公の告白は泣かせる。この告白には、ディケンズの名作のような神々しさがある。満員のシネ・ヌーヴォの観客はみんな泣いていた。全く、相手が死ぬと判っていたら、何でも許せるのに、渡世とは何と難しいことだろう。何もない青空は渡世というしがらみを抱えて、人の許せない生活がまた始まるのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ゑぎ[*] ぽんしゅう[*]

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