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[コメント] 書を捨てよ町へ出よう(1971/日)

いろんなコラージュは土着を身に纏うのに不思議と引き摺る根っこはなく身軽で、現代に至るまで本邦にこれを超えるものはないように思う。東京キッドブラザーズだけはどうしようもなくトロ臭いが、今となってはこれも味。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







プログレ崩れみたいなファズギターとハモンドオルガンによる東マイナー曲の男女合唱。このネクラの極みみたいな音楽でバランスを取らないと、映画の軽みはなかった、とでもいいたげに見えるのだった。

映画館で格好良く堕落しようなんてふざけるなと怒る佐々木英明。本籍、六戸村、住居新宿区戸塚一丁目。戦争犯罪人で散髪してくれる父斎藤正治は貸した2千円返さず覗きの常習犯。隣人の金さん下馬二五七は天皇皇后の写真磨いている。

人力飛行機で飛んで祖国へ帰ろうとした、対馬海峡に墜落、この朝鮮少年即死。飛行機は何度か幻想のなかで飛ぼうとして、最後に身を捨てるに値するだろうか祖国よの絶叫とともに燃やされる。中盤に顔の判らない朝鮮出身の吃音青年の独白がある。「どもりの思想というものもあるのではないでしょうか。運命交響曲のダダダダーン」。すると佐々木英明の青森出身という説明は嘘でコリアンなのかも知れない。いや、両方を兼ねたというべきか。

序盤の件がいい。ファズギターで♪こんな平和はほしくないと合唱されて星条旗が焼かれ路上ファック、ニクソンのお面が廃品回収に出かけ、御大典記念なるでかい碑の袂で学生が煙草を吸い、陰茎の形したサンドバックが街頭にぶら下げられる。

伝言板コーナーには「笑う会」もすでに登場しており、高倉健の任侠映画が賛美される。寺山らしく母親を俎上に上げ、農婦の写真写した母さんの歌の替え歌♪母さんのせっかちな欲望の大きな尻を、母さんの欲深な身の程知らずの乳房を、母さんのホンネを引き摺る言葉をボクは捨てる。盗癖のある婆さんはなんと田中筆子さん、父の手配で養護ホームに勧誘され、大八車で回収される。平泉成の部屋にはGet Ya-Ya’s Outのジャケットが飾られている。

ただ、えらく長くて詰まらない件も混在している。手持ちキャメラに向かって都電の線路走る冒頭とか、部活のシャワー室とか娼館(般若心経が誦まれる)とか兎殺された妹の小林由起子の集団強姦とか(これで女になって兎を卒業、といういまは信じられないファック礼賛が当時流行ったものだった)、美輪明宏の娼館とか。ラス前の戸塚一丁目での喧嘩は意味がよく判らなかった。このときすでに意味はどうでもいいのだが。

「ほかのひとの心臓は胸にあるだろうが、お前の体はどこもかしこも心臓ばかり いたる処で汽笛を鳴らす」(ヤマコフスキー)とか「苦しみは変わらない 変わるのは希望だけだ(マルロー)とか「楽園を追放された人間は歴史への道に出てゆくことを強いられたのである」(フロム)などの落書はイマイチ判然としない。「自由の敵に自由を許すな」と大書されたグラウンドでサッカーして、その標語が消えて行くというのは少しありふれている。

歩行者天国での路上パフォーマンスは新鮮(ヤラセなんだろうか)。「親父を自立させたいんだ」「こっから先はいいことないよ」と通せん坊して突き飛ばされる。ラストもいい。「真昼間のビルの壁に映画なんか映るかよ」「俺は映画が嫌いだった。さよなら映画」。主人公の声がいつまでも記憶に残る。『嫌われ松子』などは本作の影響抜きに考えにくいだろう。初見かも。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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