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[コメント] 黒衣の刺客(2015/台湾)

ここにきて侯孝賢はまだ進化する。半透明の布が何層も折り重なった奥の方で黒い影が動き、それが手前に見えるまでの持続。蝋燭の炎が揺れ動き、眼が慣れるにつれて微かに漂う煙も見えてくる。光の推移、大気の動きの定着。一方で、鳥の群れの動きや移動ショットなど「もっと観ていたい」と思わせる快楽的な画面を躊躇うことなく寸断する編集の潔さも併せ持つ。
赤い戦車

半透明の布、柱、煙、木の枝から更には蝋燭の炎のピンボケまで、視点を覆う遮蔽物の多さ。最初に挙げた要素をわざと見えにくくさせるカメラの配置は、もちろん奥行きを出すためでもあろう。しかし、それだけではなく、観客に対して「観る行為」を意識させ、その困難さを自覚させんがための意思表示と私には思える。

第1ショットからして2頭の馬が木の向こう側に配置されているし、ラストショットはよく観察しなければストップモーションかと見紛うため、画面奥の影の中に目を凝らす必要がある。こうした「観ろ」と突きつけるような傾向は世界的なのか、ゴダールの『さらば、愛の言語よ』もそんな感じであったし、ソクーロフが長年取り組んできた「画面の歪曲」なども同じ意図に基づくだろう。

山上に雲が立ち込めてくるショットは映画に愛されていなければ撮れまい。アンゲロプロスリュミエールストローブ=ユイレなど先達の名を思い浮かべるような画面もありつつ、見事な照明で彩られたデジタル画面の触感が、今までにない新しい感覚を生み出す。或は物語を殆ど語ろうとしない、例えば妻夫木聡忽那汐里との関係はこの4ショットだけで十分だ、という姿勢。この映画のかっこよさには驚愕した。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)袋のうさぎ セント[*]

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