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[コメント] 言の葉の庭(2013/日)

これほど雄弁に描き込んだ空間と気象を手にしてもなお音楽と台詞の饒舌を重ねずにおれない作家の熱情と技術は、一般的には強迫観念と名付けられている。『言の葉の庭』と題しておきながら無言劇を繰り広げてみせる映画であればさぞかし格好よかったろう、というのはいかにも無責任な放言に過ぎぬとしても。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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画面のファンタジーという点では他にも多くの有力候補があるが、個別のシーンとしてはタカオくんがユキノさんの足の採寸をする一連をベストに挙げたい。「靴」やら「歩く」やらはむしろこのシーンから逆算して捻り出されたテーマではないかと思われるほどに息を呑む仕上がりだ。同時にここは劇中で最もエロティックな瞬間ともなっているが、そのエロティシズムの神髄は「足」でも「触れること」でもなく「採寸」そのものにある。タカオくんが製作しようとしている靴は一点物の誂え品であろうから、おそらく足長・足幅・足囲に留まらず、足のあらゆる部分を事細かに検分したに違いない。きっとそれは足の所有者たるユキノさん以上にユキノさんの足について詳しく知る行為だ。そのディテール主義とでも呼ぶべき態度、およびそれがもたらすユキノさんとタカオくんの(ユキノさんの足にまつわる関心度・知識量の)逆転≒倒錯こそがここでエロティシズムの源泉として働いている。

 ところで「ユキノ」というのはてっきり名だとばかり思い込んでおりましたら後に姓であるということが判明しまして少しばかり吃驚のほうをさせていただいた次第なのですが、そも「タカオ」というのも名・姓ともに通用する音であると気づいて「なるほど」と頷きかけたところでさらに気づいたのが、いったいこれのどこがなるほどなのか、ということでありました。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)moot ぱーこ[*] ナム太郎[*]

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