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[コメント] 靖国 YASUKUNI(2007/日=中国)

刀匠の存在はやはり興味深いし「中国人は中国に帰れ!」のおっさんなどなかなかエキセントリックな人も登場するものの、どうもキャラクタが弱いという印象を覚える。それは監督のフォーカスに厳しさが足りないためではないか。人物に対してだけではない。風景に対しても、「問題」の焦点に対しても。
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私はさほどドキュメンタリを見る観客ではないので大したことは云えないけれども、たとえばワイズマンのドキュメンタリが無茶苦茶面白いのは、登場する人物や問題とされている事柄に対するフォーカスの厳しさのためではないだろうか。フォーカスの厳しさが一見普通の人の普通の発言・仕草から「面白さ」を引き出す。この映画に対する私の最も大きな不満は、だから、刀匠が秘めているはずの「面白さ」をリ・インが最大限まで引き出していないことだ。「普段はどんな音楽を聴いていますか?」という唐突な質問がこの映画において一、二を争うズッコケ質問であるという意見には私も大いに賛同するけれども、それがとりあえず「戦争」「靖国神社」「靖国刀」とは離れたところから刀匠のパーソナリティを浮かび上がらせるという目的を持っていたのならば、決してまずいアプローチではないだろう。むしろそのアプローチが徹底されていないことを私は歯がゆく思う。

ただし、作業中の刀匠を見つめる「待ち」の視線には好感が持てるし、そもそも八月十五日の靖国神社にカメラを持ち込んで一篇の映画をこしらえてやろうという香具師的根性が見上げたものだ。ラストの刀に関する「資料映像」群は率直に云って長すぎるが、方向性不明の執念のようなものが炸裂していて、その点は興味深い。また、アクション映画的に見て傑出した空間把握のショットがひとつだけ紛れ込んでいて吃驚した。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)モノリス砥石[*] chokobo[*]

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