いくらヤクザに追われているからと言って、さすがに赤ん坊を背負った若妻に命の危機が迫ってしまうとコメディとして楽しめなくなりそうなので、「抗争に巻き込まれる（巻き起こす）」という設定にも関わらず一発の銃声も鳴らさなかったのは作り手の性根の優しさのように思う。映画における最大の恐怖をあくまで義父母から動かさなかったので、結果として、ペ・ドゥナの立ち振る舞いやころころ変わる表情を安心して楽しむことができた。途中でサバを買う小ネタも良。

　脚本的には「ペ・ドゥナのファン向け映画」という域を出ていないものの、追いかけっこが始まってすぐに屋上に追い詰められたり、白ヘビの人物像を紹介してすぐにトマトをぶつけたりと、変に間を空けずに伏線を回収していくあたりは小気味よく流れていて好印象。それでもラストはもうひと工夫あってもよかった。黒服がファンだったくだりは、あの人、映画の中で唯一マジで恐そうな人だったので驚いたです。

　それにしても、顔が汚れれば汚れるほど魅力的になってゆくペ・ドゥナという人は、まったく変な女優だなぁ。