[コメント] 親愛なる同志たちへ(2020/露)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
KGB上官が処刑の話の際に見せた腕の入れ墨などよくわからないところもあったが、製作者の怒りは全編を通して伝わってくる映画だった。
群集が市委員会ビルに迫った時に、うろたえた責任者の男が電話で「指示を」「指示を」と繰り返すシーンとか、工場で地区書記の男が群集の前で何も話せずに退散するシーンなど、監督の悪意を感じさせるほどの滑稽さは印象深く、記憶に残ると思う。
ところでこの映画は2020年ロシア製作となっているが、ロシア本国では公開されたのだろうか。ロシアのウクライナ侵攻が始まった2022年2月下旬以降、ロシアでは反戦を主張する行為はおろか、白紙を掲げたメッセージ表明さえも反戦行為とみなされて逮捕されるという報道がされている。
本作のように、国や権力上層部に都合の悪いことはすべて隠そうとする態度を痛烈に批判したこの映画は、今のロシアでどういう評価になるのだろうかと、興味深いものがある。(22.4.18.記)
映画を観た翌日、気になって少しネットで調べてみた。まず舞台となったノボチェルカックスの場所だが、映画ではソ連南部としか紹介されていないが、今のロシア南西部で、ロシアとウクライナの国境から西へ150キロくらいにあり、ウクライナ東部にあってロシアの集中的な攻撃を受けて広く知れ渡った都市マリウポリから200キロくらいの場所にある。
そしてこの地は、古くからコサック兵団の根拠地らしく、劇中「ドン地方」という台詞もあったが、古くからのコサック兵団の一つであるドン・コサック兵団の地でもある。
そしてコサック兵団はロシア革命の折には、白軍側(反革命側)につき、革命の勝利後に迫害されており、そのため第二次大戦中のナチス侵攻を受けて、ナチスと協力して当時のソ連を攻撃した側に立ったコサック兵団の流れを汲む集団もいたらしい。
それを思うと、主人公の父親の軍服と、それに異様に気をつかう主人公の態度は、もしやその父親はコサックの流れを汲むものか?と思えるし、当時のソ連共産党中枢には「やっぱりあの地方の人間は反革命の末裔どもか」という気持ちがあったのかも知れないと思えてしまう。
そのことを思って、今のロシア‐ウクライナ戦争の眺めるといっそう興味深いものがあるし、その下で、この映画が今のロシアでどういう扱いを受けるのか、ますます気になるところである。(22.4.19.記)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。