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[コメント] ニューヨークの王様(1957/英)

いかにもチャップリンらしい小ネタの数々も楽しいが、ラストの落ち着いた、静かな演出にはいろいろと考えさせられた。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







台頭してきたテレビ放送とそれに伴うコマーシャリズム、そして、赤狩りの嵐が吹き荒れていたであろう当時のアメリカへの風刺はわかる。

最後の方で幼い少年に、その両親を人質にとって共産党員と思しき者の密告を無理やりさせる。なんとむごい、非道な仕打ちであろうか。

私はラスト、チャップリンがその仕打ちに対して怒りを爆発させる、激しいシーンがあるのではないかと思っていた。かつての『独裁者』のように、あるいは鋭い台詞を放った『殺人狂時代』のように。

だが、そういうラストではなかった。自らの信念と誇りを踏みにじられ、ただ涙ぐむしかできない少年を静かに、あたたかく包み込んで終わった。

ちょっと意外な感じさえした。

しかしそこには、怒りとともに、強大な力に踏みにじられた弱い立場の者達への真っ直ぐな共感と悲しみの共有があったようにも思えた。

思えばそればチャップリンのたどった道に対する思いでもあったのではないか。無念と失望をのりこえて、同じような運命にさらされた人たちへの、悲しみの共有と共感を表したかったのではないだろうか。

そしてこの意味で、本作はまさにチャップリンの最後の作品としてふさわしいとも思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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