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[コメント] サラの鍵(2010/仏)

私にはこの映画を「良い」、「悪い」という言葉で語ることはできない。ただ、想像しきれないとわかっていても、想像するしかない。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







戦争が人の心に傷を残し、人生を変えてしまうとはどれほど酷いことなのか。本作を見て、どうしても私は自分の母のことを思ってしまった。

「心の傷」などという言葉では言い尽くせない。母も父も、その子が50歳になるまで話せない。人生も何もかも変えられるような目にあって、そのことについて「話さない」と決意することもできない、話そうかやめようか、そもそも何を話すべきなのかもわからないまま、苦しみだけが続いていく。そういう心の傷、闇はある。しかもそれは自然に生まれたものではない、人の営みによってもたらされるのだ。

真実を知ることにどんな意味があるのか?知っても救いも喜びも、そういうものはいっさいない。苦悩と悲しみ、やるせなさ、情けなさ、無力感などなど、負の感情を山ほど抱え込むだけだ。

しかしそれでも人は真実を知らなければならない。人が生きていくということの意味を、一人一人にその名があるように、一人一人に真実があり、それが生きる力になるからだ。 いきなり名前を呼ばれた兵士が自ら名乗ったユダヤの少女をつい助けてしまう。当たり前ではないだろうか。本来、誰もで名前のある一人一人の人間なのだ。人間らしさとはそういうものだろう。

心を震わせるのは感情の爆発ではない。生きるという力であり、真実にどれだけ誠実であるかによって、それに近づくことが出来るのではないだろうか。だから、知らなければならないのだ。

戦争が人の心をどれだけ傷つけるのか、そしてその下で生きていくことの意義のはかり知れなさを、深く心に刻むこととなる映画であった。見て本当に良かった。心のそこからそう思える一本だった。

(評価:★5)

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