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[コメント] 落下の解剖学(2023/仏)

犬で始まり犬で終わる映画。というか、一番最初と一番最後のショットに犬がフレームインする、というだけだが、犬は正直、ということかとも思う。
ゑぎ

 もっとも、ファーストカットは、空(から)の階段が映り、小さな(犬用の)ボールが階段を跳ねながら落下するショットでもあり、映画の内容を象徴している側面もある。本作は、このファーストカットから始まる序盤、特にアバンタイトルがとてもいいと思った。

 少年−ダニエルと犬。犬洗いのシーンと、作家の主人公サンドラ−ザンドラ・ヒュラーが若い女性(学生)からインタビューされる場面をクロスで繋ぐ。サンドラはワインを飲みながら。彼女が学生に興味を持っていることが伝わる。まずは、こゝで大音量でかけられる音楽の猥雑さがいい。ほゞアバンタイトル中、この音楽が小さくなったり、大きくなったりしながらずっと鳴っているのだ。

 雪の中の一軒家。学生は車に乗って帰る。窓から見るサンドラ。ダニエル少年と犬が雪の中を散歩する。このあたりになると、少年の所作から彼が視覚障害者だと気が付く。散歩から戻ると犬が走る。家の前に出血した人が倒れている。その俯瞰。警察関係者が来る。家の中で聴取。犬を追うローアングルの移動ショット。続けて被害者の写真の固定ショットが繋がれるので、犬のミタメかと思う。この辺りまでが、アバンタイトル。

 刑事事件とその裁判を扱っているということもあり、劇中で使われる記録用のビデオカメラ映像が、度々挿入される。警察の聴取が記録されていたり、マスコミ(ニュース番組)の取材場面なんかがあるためだ。多くはハンディカメラのシェイキーなショットになるが、中盤までは、こういう雑なカメラワークが明確に切り分けて、認識できるように使われている。しかし、事件前日の夫婦喧嘩についての公判直前に、変なカメラの動き、不自然なパンがある。これも狙ったものだと了解しているが、こういう演出は私は嫌いだ。他にも、後半になると、法廷シーンで、証言を聞くサンドラへ小さくズームインをするショットなんかも出てきて興が覚める。

 また、終盤になってダニエルと犬のプロットになり、中盤は画面から消えていた犬が再度活躍するのは、ゾクゾクする作劇で、これは良いところだ。しかし、私は、もっと劇的なツイストが待っているかと期待してしまった。ダニエルが週明け(次回公判)まで、母親のサンドラと一緒にいたくないと云い、車の中で泣くサンドラを見せる部分(お金は幸せを生まない、でも地下鉄の中で泣くよりも車の中で泣く方がいい、と云うシーン)も、良い場面だと思うけれど、随分と勿体ぶっている。これはこれで、深い帰結なのかもしれないが、震撼とするレベルでは無かった(私が持ったような通俗的な期待をウッチャるところ、それがツイストなのかも知れないが)。

 あと、エンドロールでも流れるショパンの前奏曲(第4番ホ短調)が良く合っている。それと、サンドラが依頼した友人の弁護士−スワン・アルローとの関係の描き方は、ちょっとハラハラさせられる部分もあって、フランス映画らしいところだと思う。もう一人の弁護士(女性)は、最近何かで見た顔、聞いた声だと思いながら見ていたのだが、見終わって調べると、『ゴースト・トロピック』の主人公(『Here』でもチョイ役で出ていた)−サーディア・ベンタイブだった。この全然違う個性の造型には驚く。

#備忘。犬の名前、スヌープ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)おーい粗茶[*]

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