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[コメント] 枯れ葉(2023/フィンランド=独)

溶明前にレジの音。開巻はスーパーマーケット。廃棄品をチェックするヒロインのアンサ−アルマ・ポウスティと、彼女を見る警備員のカチッとしたショットが繋がれる。警備員がアンサに気がある、という描写かと思った(険しい表情はフェイントかと)。
ゑぎ

 アンサが帰宅してラジオをつけると、ロシアのウクライナ侵攻のニュース。これが何度も繰り返され、中盤のアンサのレスポンスで、明確なスタンスが表明される。唐突に工場のシーンがクロスカッティング。防御服を着て、何かを洗浄している(?)ホラッパ−ユッシ・ヴァタネンが、もう一人の主人公だ。「禁煙」を意味する文字が書かれた壁の前のベンチでタバコを喫う。年配の友人フオタリ−ヤンネ・フーティアイネンが来る。彼ら男2人で行くカラオケの場面がいい。フオタリの執拗な自画自賛が可笑しいのだが、こゝで、ホラッパとアンサは出会う。シューベルトのセレナーデが歌われる中での、アンサとホラッパの視線の演出で、既に私は涙が出そうになる。

 アンサは期限切れの商品がカバンから出てきてスーパーをクビになり(警備員は私の予想に反してしっかり監視の仕事をしていたのだ)、パブ・カリフォルニアという酒場でコップ洗いの仕事につく。こゝのオーナーがまた怪しい。彼が麻薬売買で捕まってしまい、アンサは給料をもらえずじまい。この場面でたまたま通りかかったホラッパが話しかける。このあたりのプロット運びの早さ(ある意味いい加減さ)が相変わらずのカウリスマキだと思う。ホラッパはアンサを映画に誘う。

 2人で見た映画は『デッド・ドント・ダイ』。見終わった観客が、『田舎司祭の日記』と『はなればなれに』を引き合いに出す会話をしたり、アンサが、こんなに笑った映画は初めて、みたいに云うのは、これは複数の角度での皮肉だろう。ホラッパはアンサから電話番号のメモをもらうが、失ってしまうという展開。

 この時点で、2人の再会を最終盤に持ってくるような作劇かな、と予想を立てたのだが、意外と簡単に邂逅を果たす、というのも私にとってはツイストであり、終盤で、これ見よがしな、隠蔽された(画面外の音のみで示される)アクシデントがプロットをシフトさせたり、それによる死活の行方を焦点とするのは常套というか至極ありきたりに感じられるが、これは、映画はプロットではなく、あくまでも画面で成り立つというスタンスの現れであるように私は思う。

 あらためて画面に関してまとめると、本作においても全編に亘って原色の色遣いの美しさ、極めて安定感のある切り返しなど、画面の触感は比類ないものがある。また、犬への演出もいい。ただし、上述の映画館の場面の会話や、貼られているポスター、ラストの科白(犬の名前)などで表出したベタな映画愛というか映画に対する嗜好の表明は、ちょっと臆面が無さ過ぎるのではないか、という感覚を持った。これを喜ぶ映画ファンが多いとは思うが、私は天邪鬼なので、ノイジーに感じた。

#とか云いながら、映画館等に貼られていたポスターを他のサイトで調べた。一応、備忘のため、記述しておきます。

 『逢びき』『軽蔑』『気狂いピエロ』『仁義』『燃える大陸』『ラルジャン』『殺人者たち』(シーゲル版)『ゴングなき戦い』『若者のすべて』など。

(評価:★3)

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