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[コメント] 殺したのは誰だ(1957/日)

日活ロゴの時点で、オフでエンジン音が聞こえる。クレジットは、キャデラックのダッシュボードの画面。本作は、老いた自動車ディーラー役の菅井一郎が純然たる主役だ。
ゑぎ

 菅井が、若手の(と云うには中年だが)ディーラー−西村晃によって、客を奪われる場面から始まる。西村が喫茶店から客に電話をするカットがいい。菅井のすぐ近くにいることを、窓外の道路の風景で示す、空間の見せ方に唸らされる。

 本作は菅井の仕事や西村との確執の場面と共に、彼の内縁の妻と云っていいのだろう、飲み屋の女将−山根寿子との関係や、菅井と子供たち−渡辺美佐子小林旭との、衝突や和解が描かれる。

 全体に街中のシーンでのクレーン撮影が頻出するのだが、いずれも見事なカメラワークだ。また、自動車の荒っぽい運転に驚かされるシーンも多数ある。歩行者スレスレだったり、対向車がどんどん来るのに右折したり。主に菅井の運転の場面で見られるが、小林の友人−青山恭二のオープンカーのシーンでもある。

 あと、山根がやっている飲み屋の不衛生さの描写は、ちょっとやり過ぎではないかと思うぐらいの過剰な画面だ。序盤で、ハエ取り紙と、ハエ取り棒(ガラス製の長い漏斗管)が出て来て、汚い店だな、と思わせるが、終盤には、ハエだけでなく、ウジ、ダンゴムシ、ゲジ、蜘蛛、ネズミが出て来るのだ。蜘蛛については、天井から糸でぶら下がって、小林と西村二人の顔の前に出現する。

 そして、本作のハイライトは、自動車の保険金目当てで、千駄ヶ谷のロータリーにある、大きな車止め(ガードブロック)に、走行する自動車をワザとぶつけるシーンだろう。これが2回出て来る。いずれも西村にそそのかされてやるのだが、運転者は書かないでおこう。2回とも、自動車の衝突の衝撃と、大破の描写は迫力がある。こゝが本作のタイトル(殺したのは誰だ)を導くことになる。

 というように、なかなか強烈な場面が継続する緊張感溢れる映画で、カルト的な人気が生じても不思議ではない作品だと思うのだが、全体としての、まとまりには欠ける感がある。上であげた以外にも、中盤の脇筋で、小林旭の賭けビリヤードのシーンがあり、『ハスラー』を想起するような本格的な演出で、ある程度の尺を取って描かれる部分なども、突出感がある。最初にワザと勝たせて、次にボロ負けに追い込む手口が冷徹に描かれていて、私は気に入った場面だ。

#備忘でその他の配役等を記述。

・菅井の満州時代からの友人で販売店の社長は大森義夫。山手線の高架下(有楽町?)で車拭きを仕切っているフランクは殿山泰司。殿山泰司の妻は高野由美

・山根の店で、いつも酔いつぶれている元ディーラーのダンロップさん、浜村純

・渡辺美佐子はキャバレーの女給だが、家に引き入れる常連客?に梅野泰靖

・小林がつるんでいる友人には青山恭二の他に筑波久子武藤章生がいる。小林の賭けビリヤードの相手は波多野憲

・菅井の満州時代からの知人はもう一人出て来て、清水将夫

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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