ただし、それでも同時に本作は力のあるコメディであることを認めねばならない。それは豪華な脇役陣に拠るところが大きい。特に三好栄子演じる右翼政治家のキャラクタリゼーションは絶品だ。登場シーンで既にひげと胸の日の丸に剋目してしまう。その言動はちょっとアイロニーが効きすぎていると思えるくらいだし、娘の淡島千景までが下品に演出されているのはやり過ぎと思うけれど。また「原爆ばばあ」と呼ばれる東山千栄子も対照的で面白い。「そんな顔が当選したらまた子供たちが戦争で死ぬんです」というのは意味不明というか直截的ではない表現だが、木下の気持ちを代弁する科白だろう。あと、殆ど科白なしで大真面目にダンサー（高峰秀子の相手役）を演じる堺駿二も忘れがたい。

　ラストの突き放しは鮮やかな演出じゃないし、「カルメン頑張れ」なんていう字幕はつまらないが、突き放し自体は私の好みだ。