コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] わたしは光をにぎっている(2019/日)

裸電球に照らされたかのようなペイルオレンジの光の包む、温かいが敗北を運命づけられた商店街の店々。熱い信念を秘めてはいるがぼんやりを決め込むヒロインに合わせるかのようだ。だが、それだけで終わる「病」にとり憑かれた物語ではない。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







銭湯、ラーメン屋、バー、映画館…(エチオピア料理店は事情により除外される)は、すべてこの薄ぼんやりしたあかりに照らされ、それなりの懸命さと人懐っこさで印象付けられるが、最後には再開発計画によって閉店を余儀なくされる。これを『三丁目の夕日』の背景とつなげるのは強ちバカげた思いつきではない。いずれも昭和を引きずる過去の遺物であり、置き去りにされる運命の街の構成物だからだ。

そして流されることをやめたヒロインを照らす光源は、目を見張るような白色の自然光だ。これを観て、すべての「滅びの美学」への無意味なシンパシーは否定され尽くす。これは未来を肯定する若者に贈られたエールだ。ものを見る目をもち、ものを聞く耳をもつ彼らにはノスタルジーではなく健康的な視線こそが相応しい。視点の変換は、この物語を懐古の病から完全に救い出してくれた。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。